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スペイン対ドイツ戦で、イエローカードが17枚も飛び交った理由「ペドリに対するクロースのファウルに警告を出さなかった判断が尾を引いた。それ以上に大きかったのは――」【EURO2024コラム】

片野道郎

2024.07.08

スペイン対ドイツ戦で主審を務めたアンソニー・テイラーは、両チームに計17枚のイエローカードを提示した。(C)Getty Images

「事実上の決勝戦」という呼び声も高かったEURO2024準々決勝スペイン対ドイツは、極度にハイペースな展開の中でワールドクラスのタレントが技術の粋を尽くして鎬を削るスリリングでハイレベルな試合だったが、同時にイエローカード17枚が飛び交う乱戦でもあった。

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 両チームのパフォーマンスが圧倒的なレベルにあっただけに、「荒れた試合」という表現は似つかわしくない。しかし17枚というカードの数が尋常でないことは確かだ。いったいなぜ、これだけ多くのカードが飛び交うことになってしまったのだろうか。

 それには2つの側面がある。ひとつは、アンソニー・テイラー主審(イングランド)がジャッジの基準を曖昧にしたことによるゲームマネジメントの失敗。もうひとつは、両チームの戦術が必然的にもたらす、フィジカルコンタクトやタクティカルファウルの多さだ。この2つの相乗効果によって、カードが止まらなくなってしまった観がある。

 テイラー主審に関しては、開始早々の4分、ペドリ(スペイン)に正面から激しいゲーゲンプレッシングを仕掛けたトニ・クロース(ドイツ)のかなり危険なファウル(遅れて足を出して膝と膝が当たり、ペドリは靭帯損傷)に対し、イエローカードを見送った判断が、後々まで尾を引くことになった。その直後の6分にも、ラミネ・ヤマルの突破を止めにいって足を踏むプレーがあったが、これはファウルすら取らずに流している。

 この試合がラストマッチになる可能性があるクロースに対して、開始直後にプレーを制約する要因となるイエローカードをためらったのは、審判もまた人間である以上、理解できないことではない。しかし結果的にはこれがジャッジの基準を示す判定となり、激しいフィジカルコンタクトに対するハードルを下げる役割を果たすことになった。
 
 その後も激しいコンタクトプレーによるファウルは何度か繰り返されたが、それにカードを出すかどうかの判断基準は、第三者から見れば曖昧なまま。13分、ドイツのペナルティーエリア直前で突破を図ったダニ・オルモ(負傷したペドリに代わって8分に途中出場)をアントニオ・リュディガーが強引に止めたプレーには、さすがにイエローカードを出さないわけにはいかなかった。

 28分にはダビド・ラウムが正面からのチャージでダニエル・カルバハルを倒したプレーにカードを出し、その直後にはロビン・ル・ノルマンがイルカイ・ギュンドアンを後ろから引っ張ったファウルにもイエロー。いずれのファウルも、クロースやリュディガーほど酷くはないように見えたが、激しいコンタクトプレーに歯止めをかけてゲームを落ち着かせるために、やや辻褄の合わないカードを出して帳尻を合わせた感もあった。

 しかし、それ以上に大きかったのは戦術的な要因だ。この試合を戦ったドイツとスペインはいずれも、ボールロスト時に後退せずむしろ前に出てボールホルダーに襲いかかり即時奪回を狙うゲーゲンプレッシングはもちろん、相手のビルドアップに対しても前線からマンツーマンのハイプレスを仕掛け、さらにミドルゾーンの守備でもボールホルダーに絶え間なくプレッシャーをかけて積極的に奪回を狙うアグレッシブな守備戦術を採用している。

 とくにドイツは、1対1のデュエルを重視する伝統に加えて、近年はゲーゲンプレッシングの始祖でもあるラルフ・ラングニック(現オーストリア代表監督)がレッドブルグループに導入した「正面からのデュエルではスピードを緩めず激しく当たって足を出しボールを奪い切る」というきわめてアグレッシブな守備の原則が、広く受け容れられ浸透している。もちろん、ドイツ代表も例外ではない。
 
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テイラー主審はファウルに対するジャッジの「さじ加減」を明らかに誤ってしまった