フットボール部門総責任者のポストは、アニェッリ時代の末期にファビオ・パラティチ(現フィオレンティーナSD)がその座について以降、フェデリコ・ケルビーニ(現パルマCEO)、クリスティアーノ・ジュントリ(現アタランタSD)が務めてきたもの。その下で移籍オペレーションを担当するSDには、マルコ・オットリーニが残留する形になっており、かつてのイタリア型組織体制に戻した格好だ。
それに伴って、これまでフットボール・ストラテジー・オフィサーというポストでコモリの片腕的な位置づけだったジョルジョ・キエッリーニは、FIFAやUEFA、レーガ・セリエAなどとの渉外担当ともいうべきチーフ・クラブ・アフェアーズ・オフィサーに肩書きが変わり、強化に関する意思決定ラインから外れている。
この組織再編には、コモリ体制下の大きな問題だった経営と現場の齟齬や対立を解消するという狙いもある。チームの継続的な成長と発展のためには、両者の意志疎通、意思統一が不可欠であることはいわずもがな。「コモリか、スパレッティか」という二者択一で後者を選んだ以上、CEOを中心とする経営サイドが主導して進める形だったチーム強化(とりわけ戦力補強)に、現場のトップである監督がより強く関与し、意見・要望を反映できる状況を整えるのは必然だったと言える。
ただし、カルネバーリCEOの下、マッサーラCFOとスパレッティ監督が連係して進めることになる今夏の移籍マーケット/チーム強化には、大きな足かせがかかっている。この6月末にUEFAと結んだファイナンシャル・サステナビリティ・ルール(FSR=旧ファイナンシャル・フェアプレー)に基づく和解協定によって、向こう3シーズンの移籍オペレーションに大きな制約を受けているからだ。
これは、22-23から24-25までの3シーズンを対象とする審査において、損益の赤字幅がFSR基準の定める最大6000万ユーロ(約111億円)を超過した(=FSR違反)ことに対する制裁という意味合いを持っている。22年の不正会計問題に関しては、UEFAから23-24の欧州カップ戦(カンファレンスリーグ)出場権剥奪の処分を受けたことですでに決着しているが、今回の和解協定はFSRの審査期間である22-23からの3シーズンにおける累積赤字を対象とするもの。この3シーズンの決算では、合計およそ3億6000万ユーロ(約668億円)の赤字を計上しており、FSRの計算式(インフラ、育成、女子サッカーへの投資などが控除される)でも限度額を大きく超えることは必至と見られていた。
処分の内容は、25-26の赤字額を6000万ユーロ以内、26-27はブレイクイーブン、27-28には3年間累積の赤字総額を6000万ユーロ以内に抑えることを義務付けるというもの。さらにUEFAコンペティション(今シーズンはヨーロッパリーグ)へのAリスト選手登録に関しては、新加入選手の獲得コストが売却・退団によって削減されたコストを超えてはならない(つまり売った分しか補強に使えない)という制約もかかる。
したがって今夏の移籍マーケットには、経常損益での赤字を圧縮するためのスカッドコスト(人件費+移籍金減価償却費の総額)削減を進めながら、さらに移籍収支をプラスに維持するという、きわめて難易度の高いオペレーションが要求されることになる。
『Transfermarkt』によれば、現時点における移籍収支はおよそ4700万ユーロ(約87億円)の赤字。ジェノアから獲得した19歳のCFジェフ・エカトールの移籍金1640万ユーロ(約30億円)は、マルセイユが買い取ったティモシー・ウェアの売却益などでカバーできているが、昨夏に買い取り義務付きレンタルで獲得したオペンダ、昨冬にニースからレンタルしたジェレミー・ボガの買い取りに支出した計4750万ユーロ(約88億円)が、そのまま赤字として残っている格好だ。
そのため今後は、既存戦力の売却と新戦力の獲得を合わせて、5000万ユーロ(約92億円)近い黒字を出さなければならない計算。となるとまずは「買い」よりも「売り」が焦点となってくる。スパレッティから見て余剰戦力であるオペンダ、ジョナサン・デイビッド、エドン・ジェグロバ、トゥーン・コープマイネルスといった選手は、残余簿価が大きいため高値で売却できなければ帳簿上の利益を出せないが、昨季のパフォーマンスが悪く市場価値が下がっているという難しい状況だ。
利益を出すためには、ケフレン・テュラム、ブレーメル、ピエール・カルル、アンドレア・カンビアーゾといったレギュラークラスの売却を強いられる可能性が高いというのが、現時点における観測だ。もしそうなっても、その穴を埋める新戦力を売却益よりも低い移籍金で獲得しなければ、トータルの移籍収支をプラスにすることはできないわけで、「コスパ」のいい新戦力の発掘から移籍交渉まで、きわめて難易度の高いオペレーションが必要になってくる。
確かなのは、今夏も含め少なくとも向こう1~2年、ユベントスは積極投資による戦力強化に代表される「攻めの経営」ではなく、コスト圧縮と収支改善を進めながら戦力を維持する「守りの経営」を強いられるということ。カルネバーリCEOとスパレッティ監督の下で、経営と現場の連係を確立してこれまでの迷走に終止符を打ち、経営組織と財政基盤の確立、継続性を持ったチーム強化という一本の筋を通していくことができれば、2020年代に入って以来続いてきた「臥薪嘗胆」の時期にも遠からずピリオドを打つことができるはずだ。
今夏の移籍マーケットは、今シーズンがその第一歩となるかどうかを占う試金石になりそうだ。
文●片野道郎
【現地発コラム】前例がないほど非イタリア的な「新生ミラン」、アメリカ的な機能分散型の組織形態、新監督アモリム招聘の舞台裏――クラブ要職を刷新した名門の行く末は
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それに伴って、これまでフットボール・ストラテジー・オフィサーというポストでコモリの片腕的な位置づけだったジョルジョ・キエッリーニは、FIFAやUEFA、レーガ・セリエAなどとの渉外担当ともいうべきチーフ・クラブ・アフェアーズ・オフィサーに肩書きが変わり、強化に関する意思決定ラインから外れている。
この組織再編には、コモリ体制下の大きな問題だった経営と現場の齟齬や対立を解消するという狙いもある。チームの継続的な成長と発展のためには、両者の意志疎通、意思統一が不可欠であることはいわずもがな。「コモリか、スパレッティか」という二者択一で後者を選んだ以上、CEOを中心とする経営サイドが主導して進める形だったチーム強化(とりわけ戦力補強)に、現場のトップである監督がより強く関与し、意見・要望を反映できる状況を整えるのは必然だったと言える。
ただし、カルネバーリCEOの下、マッサーラCFOとスパレッティ監督が連係して進めることになる今夏の移籍マーケット/チーム強化には、大きな足かせがかかっている。この6月末にUEFAと結んだファイナンシャル・サステナビリティ・ルール(FSR=旧ファイナンシャル・フェアプレー)に基づく和解協定によって、向こう3シーズンの移籍オペレーションに大きな制約を受けているからだ。
これは、22-23から24-25までの3シーズンを対象とする審査において、損益の赤字幅がFSR基準の定める最大6000万ユーロ(約111億円)を超過した(=FSR違反)ことに対する制裁という意味合いを持っている。22年の不正会計問題に関しては、UEFAから23-24の欧州カップ戦(カンファレンスリーグ)出場権剥奪の処分を受けたことですでに決着しているが、今回の和解協定はFSRの審査期間である22-23からの3シーズンにおける累積赤字を対象とするもの。この3シーズンの決算では、合計およそ3億6000万ユーロ(約668億円)の赤字を計上しており、FSRの計算式(インフラ、育成、女子サッカーへの投資などが控除される)でも限度額を大きく超えることは必至と見られていた。
処分の内容は、25-26の赤字額を6000万ユーロ以内、26-27はブレイクイーブン、27-28には3年間累積の赤字総額を6000万ユーロ以内に抑えることを義務付けるというもの。さらにUEFAコンペティション(今シーズンはヨーロッパリーグ)へのAリスト選手登録に関しては、新加入選手の獲得コストが売却・退団によって削減されたコストを超えてはならない(つまり売った分しか補強に使えない)という制約もかかる。
したがって今夏の移籍マーケットには、経常損益での赤字を圧縮するためのスカッドコスト(人件費+移籍金減価償却費の総額)削減を進めながら、さらに移籍収支をプラスに維持するという、きわめて難易度の高いオペレーションが要求されることになる。
『Transfermarkt』によれば、現時点における移籍収支はおよそ4700万ユーロ(約87億円)の赤字。ジェノアから獲得した19歳のCFジェフ・エカトールの移籍金1640万ユーロ(約30億円)は、マルセイユが買い取ったティモシー・ウェアの売却益などでカバーできているが、昨夏に買い取り義務付きレンタルで獲得したオペンダ、昨冬にニースからレンタルしたジェレミー・ボガの買い取りに支出した計4750万ユーロ(約88億円)が、そのまま赤字として残っている格好だ。
そのため今後は、既存戦力の売却と新戦力の獲得を合わせて、5000万ユーロ(約92億円)近い黒字を出さなければならない計算。となるとまずは「買い」よりも「売り」が焦点となってくる。スパレッティから見て余剰戦力であるオペンダ、ジョナサン・デイビッド、エドン・ジェグロバ、トゥーン・コープマイネルスといった選手は、残余簿価が大きいため高値で売却できなければ帳簿上の利益を出せないが、昨季のパフォーマンスが悪く市場価値が下がっているという難しい状況だ。
利益を出すためには、ケフレン・テュラム、ブレーメル、ピエール・カルル、アンドレア・カンビアーゾといったレギュラークラスの売却を強いられる可能性が高いというのが、現時点における観測だ。もしそうなっても、その穴を埋める新戦力を売却益よりも低い移籍金で獲得しなければ、トータルの移籍収支をプラスにすることはできないわけで、「コスパ」のいい新戦力の発掘から移籍交渉まで、きわめて難易度の高いオペレーションが必要になってくる。
確かなのは、今夏も含め少なくとも向こう1~2年、ユベントスは積極投資による戦力強化に代表される「攻めの経営」ではなく、コスト圧縮と収支改善を進めながら戦力を維持する「守りの経営」を強いられるということ。カルネバーリCEOとスパレッティ監督の下で、経営と現場の連係を確立してこれまでの迷走に終止符を打ち、経営組織と財政基盤の確立、継続性を持ったチーム強化という一本の筋を通していくことができれば、2020年代に入って以来続いてきた「臥薪嘗胆」の時期にも遠からずピリオドを打つことができるはずだ。
今夏の移籍マーケットは、今シーズンがその第一歩となるかどうかを占う試金石になりそうだ。
文●片野道郎
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