プロ２年目にして訪れた胸を締め付けられるような試練。19歳の若者には少しばかり荷が重かったかもしれない。「チームの結果や順位については先輩たちに任せて、自分のプレーに集中しよう。背負い込まなくていい」と、奥野僚右コーチ（当時）から励まされた。

　シーズン中、一度も首位に立っていないが、終盤に９連勝し、奇跡ともいえる逆転優勝を手繰り寄せたのはご存知のとおり。最終節に首位の浦和が横浜ＦＣに敗れ、勝点差１で追う２位の鹿島が清水に勝ったことで、順位が入れ替わった。

「僕にとって初めてのタイトル。つらい時期もあったけれど、それを乗り越えられて、うれしいという言葉しか見つからない！（25節の）名古屋戦に負けたあと、監督から“あきらめるな。残り試合に全部勝って優勝するぞ”といわれ、その言葉を信じて戦った。暗示にかけられた？　そうかもしれない（笑）」

　この勢いのままに天皇杯もしぶとく戦い、決勝にまで勝ち上がり、広島を２－０で退け、シーズン２冠を達成。開始８分、強烈な先制パンチを浴びせたのが、だれあろう、内田だった。ＦＷマルキーニョスとのワンツーから右サイドを切り崩し、それほど角度はなかったものの、鮮やかに決めてみせた。
  　翌08年シーズンは北京オリンピックやケガでチームを離れることが少なくなく、Ｊリーグ連覇を飾ったとはいえ、「あまり貢献したとはいえないかな」と微妙な表情を浮かべていたのを思い出す。だが、佳境を迎えた32節の大分との上位対決を１－０で制し、首位の鹿島が連覇に近づいたのは確か。この試合で貴重なゴールを決めたのが内田だった。

　初めの一歩となるＪリーグ制覇がなければ、連覇もない。連覇がなければ３連覇などあり得ない。チームとして積み上げてきた３年間という歳月。09年12月５日、Ｊリーグに新たな金字塔が打ち立てられる。

　降りしきる雨のなかで進んだ最終節の浦和戦は、こう着状態のまま時間が経過した。均衡が破れたのは66分。右ＳＢの内田からのアーリークロスに対し、ＦＷの興梠慎三が体を投げ出し、ヘッドでたたき込んだ。渾身の一撃を守りきった鹿島がついに史上初の３連覇を成し遂げた。

　鹿島の先達のあとを継ぐように、内田もチームを勝たせられる選手になった。

　８月23日、Ｊ１リーグ12節のＧ大阪戦のあとに行われた内田の引退セレモニーのなかで、かつての指揮官であるアウトゥオリとオリヴェイラがそれぞれメッセージを寄せている。

　06年に高卒ルーキーだった内田を開幕スタメンに抜擢したアウトゥオリ元監督は「アツトの力を見抜き、練習の３日目で起用を決めた」と自賛すれば、オリヴェイラ元監督は「Ｊリーグ３連覇は私たちにとって大切な思い出。アツトが決めた08年の大分戦のゴールと09年の浦和戦のアシストは今でも覚えているよ」と笑顔で語りかけた。

　鹿島で輝かしい功績を残し、たくさんの人たちに愛されたクラブレジェンドがまたひとりスパイクを脱ぐ。

取材・文●小室功（オフィスプリマベーラ）