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Jリーグ・国内

いったい部活は誰の為のもの? 堀越高校サッカー部はなぜ選手主体の活動「ボトムアップ」方式で強くなれたのか?

THE DIGEST編集部

2022.05.05

昨年度も全国高校サッカー選手権大会で全国出場を果たした堀越。都内ではトップクラスの実力を誇る強豪校となった。写真:窪田亮

昨年度も全国高校サッカー選手権大会で全国出場を果たした堀越。都内ではトップクラスの実力を誇る強豪校となった。写真:窪田亮

 堀越の佐藤監督は、当時畑監督が指揮していた安芸南高を訪問し、ボトムアップ方式がどう運営され、なぜ成功することが出来たのかを学んで帰京する。

 ただし長年染みついた歴史を塗り替え、新しい道筋を切り拓くのは簡単なことではない。佐藤監督が選手主体を宣言し、キャプテンが部活を主導するようになったのは10年前の2012年だった。反感や蔑む声は、多方面から耳に入って来た。タクトを託されたキャプテンたちの立場も似ていた。選手主導なのだから、選手が選手を評価しメンバーを決めていくことになる。平等性の担保は大きな課題としてクローズアップされ、メンバーから外された保護者からは不平の声も出た。
 

 堀越では過去10年間、歴代のすべてのキャプテンがチームを前進させるために悩み考え抜いた。しかし指揮を執るのが同僚だからこそ仲間たちも放置せず、次第に手を差し伸べる輪が広がっていった。

 また成長したのは、生徒たちばかりではなかった。葛藤する選手たちから指導スタッフも多くを学び取り、より良質なサポートをするために研鑽を積んだ。選手主体のボトムアップを「放任」だと勘違いする人たちは少なくない。しかしもともと指導者の仕事とは、選手たちの希望や志向を明確に把握した上で、より良い支援をしていくことである。選手たちが「ここを改善したい」と思った時に、時宜を得たアドバイスを送り改善のための映像を手渡す。そのために佐藤監督は、寸暇を惜しむように飛び回った。ボトムアップ方式の学習を皮切りに、常にアンテナを張り巡らせ、独特のトレーニング、治療方法、さらにはセミナー開催などピッチのオンオフに関わらず、部活を通じて人間的な成熟を促すために尽力して来た。

 堀越高校が強くなったのは、全部員が当事者意識と責任を自覚し、主体的に活動するようになったからだ。ボトムアップ方式に切り替えた当初のキャプテンたちは、能力はあるのにサッカーに集中し切れない部員を真剣モードに引き込むのに苦労した。Jリーガーとして10年間のキャリアを持つ同校の藏田茂樹コーチは言う。

「今も同じような気質の選手はいます。でも以前と違うのは、個々がチームの置かれた状況を理解し責任感を持っていることです」

 入学当初から高い目標を掲げる選手たちが増え、そこに互いに高め合う相乗効果が生まれチームは強くなった。選手も指導者も明確に役割分担を意識して充実した活動を続け、何より愛されるチームに変貌した。誰かが上から強く圧力をかける部活では、こういう本質的な充足感は得られない。

「毎日の部活が高校生活で一番楽しかった」
 それは2020年度に卒業した馬場跳高くん
心からの声である。

取材・文●加部究(スポーツライター)

【著者プロフィール】
加部究(かべ・きわむ)1958年生まれ。大学卒業後、1986年メキシコW杯を取材するため、スポーツニッポン新聞社を3年で退社。その後、フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。『日本サッカー戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』『サッカー通訳戦記』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)など著書多数。今春、『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓した。

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『毎日の部活が高校生活一番の宝物』
(加部究著/竹書房/定価1,760円)

 2020年の全国高校サッカー選手権に29年ぶりの出場を果たした堀越高校。「やらされる部活」ではなく、選手が主体的に考えるボトムアップ方式へシフトチェンジし、悲願だった全国の檜舞台へと舞い戻り、初のベスト8進出を飾った。

 堀越高校サッカー部の佐藤実監督は、ボトムアップ方式で全国優勝を掴んだ畑喜美夫氏に学び、10年の歳月をかけて監督と選手の理想の形を築いていく。本書は、その試行錯誤の道のりを描いたものだ。

 本当のプレーヤーズ・ファーストとは何か? 上意下達式ではない、選手が主人公の部活動を目指す学校やクラブにも、そのヒントを教えてくれる一冊だ。

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