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海外サッカー

ついに辿り着いた悲願の“世界制覇”。W杯を掴んだ天才が涙を流さなかった理由――アルゼンチン代表とメッシの18年【後編】

チヅル・デ・ガルシア

2023.02.08

2014年のブラジルW杯で決勝まで勝ち進むも、ドイツに惜敗したアルゼンチン。この時にメッシは指揮官と仲間たちとともに、快哉を叫ぶライバルを最後まで見つめた。(C)Getty Images

2014年のブラジルW杯で決勝まで勝ち進むも、ドイツに惜敗したアルゼンチン。この時にメッシは指揮官と仲間たちとともに、快哉を叫ぶライバルを最後まで見つめた。(C)Getty Images

 だが、当時のホルヘ・サンパオリ監督は、自分よりも収入が少ない人を卑下する言動から国民の反感を買い、チーム内でも優柔不断な姿勢から選手たちの信頼を失ってしまう。常に自分の顔色をうかがって媚びへつらう指揮官の態度にはメッシも疲れ果てていた。

 そして、代表チームは本大会中に指導陣と選手が決裂するという前例のない最悪の事態を迎えた。アルゼンチンは地力を見せて、決勝トーナメントにまで勝ち進んだが、ラウンド・オブ16では、大会を制覇することになるフランスに3-4で敗れ、辛酸をなめた。

 ロシア大会後、メッシにとってピッチ内外で兄のように慕っていたハビエル・マスチェラーノが代表引退を発表。当人も9か月間もチームから離れた。
 
 それでも、メッシは代表に返り咲く。新生代表の指揮を託されたリオネル・スカローニ監督と、コーチとして帯同したパブロ・アイマール、ロベルト・アジャラ、ワルテル・サムエルら、かつて代表で元チームメイトだった人間たちとのチーム再建に使命感を抱いたからだった。

 2019年のコパ・アメリカこそ3位に終わるも、メッシは別人のような振る舞いを見せた。グループステージでは、初めて試合前に国歌を斉唱。ブラジルとの準決勝敗戦には南米サッカー連盟を「汚職の組織」と臆すことなく批判し、3位決定戦ではチリ代表MFのガリー・メデルとの身体を張った衝突を見せる。最終的に彼は退場処分になったものの、“猛犬”の愛称を持つ相手に見せた豪胆な態度は国民から絶賛された。

 また、過渡期にあった代表で満足のいく結果を残せずにいたスカローニの退任を求める声が国内で広がるなか、メッシは「チームのため」と続投を支持した。このチームと国民を一致団結させた姿勢が、結果的に栄冠に繋がったのは特筆に値する。

 2021年にコロナ禍の真っ只中にあったブラジルで開催されたコパ・アメリカで、28年にわたるアルゼンチンの無冠期間に終止符を打ち、自身にとっての代表初タイトルを勝ち取ったとき、メッシは泣き崩れた。そして自身が国民から愛され、尊敬されるようになってから迎えたカタールでの“3度目”のW杯でも彼は戴冠を果たす。偉人のディエゴ・マラドーナと比較されるなかで、「唯一足りない」とされていた世界一を掴んだのである。
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