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海外サッカー

パリSGに0-5と歴史的大敗…圧倒的強度のプレッシングに「手も足も出なかった」インテル、「しかし、今シーズンの評価はむしろ…」【現地発コラム】

片野道郎

2025.06.02

GKゾマーがデンベレの激しいプレスを受け続けたため、インテルの後方での組み立てがまったく安定しなかった。(C)Getty Images

GKゾマーがデンベレの激しいプレスを受け続けたため、インテルの後方での組み立てがまったく安定しなかった。(C)Getty Images

 インテルが一方的に守勢を強いられたとしても、これまでのように5-3-2ローブロックが危険ゾーンへの侵入を許さずに持ち堪えていれば、話は違っていたかもしれない。しかしパリSGはそこでも技術と戦術の両面からインテルを大きな困難に陥れた。

 パリSGは最後尾で2CBが2トップと2対2の同数を受け容れるリスクと引き換えに、残る8人をインテル中盤ラインの前後に送り込み、頻繁なポジションチェンジと正確なパスワークを組み合わせて、インテルのローブロックを左右に揺さぶった。

 2CBに加えてその脇に留まることが多かった左SBヌーノ・メンデスが3人でビルドアップの第1列を形成し、左右両サイド一杯のところに誰か(右はSBアシュラフ・ハキミかWGドゥエ、左は主にWGフビチャ・クバラツヘリア)が立って幅を取ることで、その5人を弧のような形で結ぶ「枠組み」が設定され、その内側で残る5人が自在にポジションを入れ替えながら、しかしバランスよくピッチをカバーする配置は保ちながら、正確なパスを2タッチでつなぎ、ブロックをこじ開けていく。

 「偽9番」的なタスクを担って「枠組み」の中を自由に動き回るデンベレ、後方から2ライン(MFとDF)間に入り込んでくるハキミが、ボールの動きに応じて局地的な数的優位を作り出し、そこにインテル守備陣を引き寄せたところで、逆サイドに生まれたスペースやギャップにボールを送り込んで、決定機へとつなげていくメカニズムである。12分に生まれた先制ゴール(左サイドで攻撃を作り、逆サイドからゴール前に入ってきたハキミがフィニッシュ)は、まさにそうした形から生まれたものだった。

 先制を許したことで、受動的な振る舞いによるゲームコントロールという選択肢が奪われたインテルは、重心を上げてプレスの圧力を高め、中盤でボールを奪ってゴールへの道を切り開く、やや能動的な振る舞いを取らざるをえなくなった。オープンプレーから決定機が作れなくとも、セットプレー(CK、サイドからのFK、敵陣深くからのスローイン)を奪えれば、そこに生まれる優位性を活かして決定機を作り出すチャンスは十分にある、はずだった。

 そして19分、ようやくその最初の機会となる、左サイド深いところからのスローインを得る。ドゥムフリースが投げ入れたロングスローを、ヴィティーニャに余裕で競り勝ったテュラムがゴール前に送り込み、それをパチョが外にクリアしてインテルがCKをゲット、したように見えた。

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 しかしボールがゴールラインを割る直前、諦めずに追ったパチョがギリギリでピッチ内に蹴り戻し、それを拾ったクバラツヘリアが一気にドリブルで抜け出して、逆にパリSGがカウンターアタックに転じる。そこから縦パスを受けて左サイドをさらに駆け上がったデンベレからのクロスを、逆サイドからフリーで走り込んできたドゥエが胸トラップからハーフボレーで叩き込んで2-0。

 セットプレーで逆襲に転じるはずが、逆にカウンターを喰らってさらにリードを許すという最悪の展開だった。この後もインテルは、CKからシュートを打つ場面を一度ならず作ったものの、オープンプレーでパリSGを脅かすことはほとんどできないまま前半を終える。そこから先の展開は、あえて詳しく描写するまでもないだろう。インテルが2年ぶりの雪辱を期して臨んだCL決勝は、0-5というCLの歴史に残る大敗で幕を閉じた。

 パリSGのボール保持、個々の技術と戦術がきわめて高いレベルにあったことは言うまでもない。しかしこの試合を決定付けたのは、パリSGの保持ではなく非保持、圧倒的な強度のプレッシングだった。

 マンツーマンハイプレスは「ボールと地域を支配して戦う」チームはもちろん、そうでないチームにとっても、相手のビルドアップを封殺し、敵陣でボールを奪って決定機につなげるための重要なツールとなっている。しかし、非保持側のフィールドプレーヤーが10人で、保持側はGKを含めて11人いる以上、GKがもたらす「プラス1」は常に、ピッチ上に数的優位を作り出してプレスを回避する術をもたらす。非保持側が安全を重視して最終ラインに数的優位を残し、前線のプレスを数的不利で行なう場合はなおさらである。

 しかしパリSGは、最後尾での同数を受け容れることで前線でもマンツーマンの同数プレスを実現し、さらにデンベレがGKに対して鬼気迫る飛び出し(最近は「ジャンプ」と呼ばれることも多い)でプレッシャーをかけることで、「プラス1」の優位性を潰すことに成功した。セリエAはもちろんCLでも、ゾマーがここまで厳しいプレッシャーを受けたことは今まで一度もなかったはずだ。プレス回避とビルドアップにおいて決定的な役割を担うゾマーまでがハイプレスの餌食になった時点で、インテルのゲームプランはすでに「詰んで」いたと言えるかもしれない。

 決勝で手も足も出なかった事実は、記録にも記憶にも残るだろう。とはいえもちろん、リーグフェーズ4位、ノックアウトフェーズでもバイエルン、バルセロナを真っ向勝負で下して決勝進出を果たしたインテルの今シーズンは、決してネガティブに評価されるべきではない。現在の欧州サッカー全体のパノラマを考えれば、売上高ランキングで欧州トップ10にすら入っておらず、戦力強化に直接つながる資金力で大きなハンデを背負っているインテルが、過去3シーズンで2回も決勝に勝ち上がったこと自体、素晴らしい偉業として評価されるべきだ。

 決勝の結果と内容は「ナッシング」だったかもしれない。しかし、インテルの今シーズンは決して「ナッシング」ではない。むしろ「ビッグシング」だったという評価がふさわしいと筆者は思う。

文●片野道郎

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