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海外サッカー

イタリア代表が大混乱…前日解任のスパレッティ監督がチームを指揮→後任決まらずW杯1年前に指揮官不在の異例事態【現地発コラム】

片野道郎

2025.06.11

半ばパニック的な形でスパレッティの解任に踏み切ったFIGCグラビーナ会長。この選択は、説得力に欠ける一手だったと言わざるをえない。(C)Getty Images

半ばパニック的な形でスパレッティの解任に踏み切ったFIGCグラビーナ会長。この選択は、説得力に欠ける一手だったと言わざるをえない。(C)Getty Images

 すでに見た通り、欧州予選から直接本大会に進めるのはグループ首位のみで、2位はプレーオフに回らなければならない。そしてレギュレーション上、勝点で並んだ場合は、得失点差で順位を決める仕組みになっている。イタリアがホームにノルウェーを迎えるのは、11月16日のグループ最終節だ。

 つまり、イタリアは初戦で敗れた時点ですでに、残り7試合に全勝したうえで得失点差でノルウェーを上回らない限り、自力でW杯出場を決められない立場に追い込まれてしまったことになる。もちろん、ノルウェーがこの後、他の3か国相手に1試合でも勝点を取りこぼせば1位抜けの可能性は増えるが、それに期待するのは難しい。

 ノルウェー戦での不甲斐ない負けっぷりに加え、過去2大会連続で予選敗退をもたらしたプレーオフの悪夢がまた蘇り、3大会連続でW杯出場を逃す可能性がにわかに生まれたため、翌日のイタリアメディアは、ほとんどヒステリックな論調でスパレッティ監督とチーム、そしてFIGCのトップであるグラビーナ会長を叩きにかかった。『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙は露骨な監督即時解任論をぶち上げ、『ラ・レプブリカ』紙はFIGCにも責任があるとグラビーナに追求の矢を向ける。

 何らかの形で「落とし前」をつけなければ収まりがつかない空気が広がるなか、グラビーナ会長が下したのは、即座に監督を解任する決断だった。オスロでのノルウェー戦から次のモルドバ戦(ホーム)まで、中2日のタイトなスケジュール。レッジョ・エミリアで行なわれる一戦の前日会見に姿を現わしたスパレッティ監督は、「グラビーナ会長から解任を告げられた。私自身は続ける意志を持っているが、解任である以上受け容れるしかない。残念だ。しかし明日の試合は責任を持って指揮を執る」と、解任の事実を自ら明かした。

 試合前日の解任も異例なら、そのまま翌日の試合の指揮を執るというのもまた異例である。たとえ解任が避けられない判断だったとしても、そのタイミング、そして発表の仕方はともに、考え得る最悪の形で行なわれたと言わざるをえない。ごく限られた1位抜けの可能性を少しでも高めるため、モルドバ戦で少しでも多くの得点を挙げなければならなかったことを考えればなおさらである。

 グラビーナは「ノルウェーは客観的に見てイタリアよりも強かった」と認めながら、その一方で「これは受け容れがたい敗戦」と明らかに矛盾した発言をそれに重ねている。さらに、自身の責任を追及する問いに対しては「このデリケートな時期に責任を放棄して自ら退くことなどできない」と返答した。

 穿った見方をすれば、マスコミやスポーツ界内部の「政敵」から厳しく糾弾され、またW杯出場を逃す恐怖に駆られて半ばパニック状態に陥った末に、スパレッティをスケープゴートとして差し出す形でその場を乗り切り保身に走った、という解釈もできなくはない。
 
 スパレッティ自身が「私の力が足りなかったことは認めざるをえない」と明言した通り、彼に率いられたイタリア代表の戦いぶりが、期待を下回るものであったことは否定のしようがない。EURO2024で、混迷としか言いようのない一貫性に欠ける采配で、グループリーグこそ奇跡的に突破したものの、続くラウンド・オブ16でスイスに惨敗し、屈辱的な敗退を喫したことは今も記憶に新しい。

 その雪辱を期し、3バックの「インテルモデル」を導入して臨んだ昨年秋のUEFAネーションズリーグでは、選手たちが持ち味を存分に発揮してフランス、ベルギーと互角以上に渡り合い、内容、結果ともに充実した戦いを見せた。だがその流れも、3月に行なわれた準々決勝のドイツ戦を1分け1敗で落とし、さらにこのノルウェー戦で完敗を喫したことで、ネガティブな形で絶ち切られてしまった。

 しかしそれでも、このタイミングで、しかも今後の方向性がまったく定まっていない状態のまま、半ばパニック的な形で解任に踏み切ったグラビーナ会長の選択は、説得力に欠ける一手だったと言わざるをえない。モルドバ戦では、解任された監督がチームを率いる異様な事態となり、スパレッティをさらし者にする結果となった。解任の通告を自ら公表し、あえてさらし者になることを選んだスパレッティは、それによって逆に自身の誇りと尊厳を守ったと言えるかもしれない。

 モルドバ相手にイタリアが終始ボールを支配したものの、ラスト30メートルの攻略に思ったよりも手こずり、逆に何度か危険な決定機を許しながら、何とか2-0の勝利。とはいえ、3月にノルウェーが5-0で勝った相手であり、しかも得失点差を少しでも詰めるために大量得点が求められる状況だったことを考えれば、まったく物足りない結果でしかなかった。しかし、すでに解任された監督が率いるチームに多くを求めること自体が、理に適った話ではないことも確かではある。

 ラニエリに監督就任を断られた今、次の候補に挙がっているのは、ミランを率いて2021ー22シーズンのスクデットを勝ち取り、今シーズンからサウジアラビアのアル・ナスル監督を務めるステーファノ・ピオーリ。しかし彼はフィオレンティーナ監督就任が濃厚になっており、受諾の可能性は低い。ということで、モルドバ戦翌日、10日の夜になって浮上してきたのがジェンナーロ・ガットゥーゾの名前だ。

 「名選手必ずしも名監督ならず」とよく言われるが、ガットゥーゾも今のところ監督として際立った実績を残しているわけではない。とはいえ、クラブチームの監督と代表監督はまったく質の違う仕事であり、適性も異なる。それはクラブチーム監督として実績を上げてきたスパレッティの失敗が示している。明らかに追い詰められた立場にあるグラビーナ会長が果たしてどのような決断を下すかに注目したい。

文●片野道郎

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