決勝戦は「オール・オア・ナッシング」だとよく言われる。勝てば全てが手に入る。敗者の手には何も残らない。インテルにとってこのチャンピオンズリーグ(CL)決勝は、結果はもちろん内容も含めて、文字通りの「ナッシング」だった。
0-5というのは、CLはもちろん欧州カップ戦のファイナル史上最も大きな点差。そして試合もそのスコアに十分見合うだけの圧倒的な内容だった。いくつもの強敵を倒して勝ち上がってきた最強チームの対決、欧州最高峰の決戦がここまで一方的な展開になるとは、おそらく誰も予想していなかったに違いない。
インテルがここまで手も足も出なかった理由はどこにあったのだろうか。対戦相手との力関係、戦術的な相性そのものは、準々決勝バイエルン戦、準決勝バルセロナ戦と、大きな違いはなかった。「ボールと地域を支配して戦う」相手に対して、「ボールを持たずに試合をコントロールする」インテルという構図である。しかしこの試合でのインテルは、「ボールを持たない」のはいつも通りだったにしても、それを通じて「試合をコントロールする」ことができなかった。パリ・サンジェルマンにその術を完全に奪われてしまったからだ。
準決勝までのインテルが見せてきた強さは、ボールを持っていなくとも相手に対して精神的な優位を失わずに戦えるところにあった。その土台となってきたのは、5-3-2ローブロックによる堅固な守備、そしてボール奪取後の素早い縦展開による逆襲速攻である。この2つによって、相手に「攻め込んでいるのにチャンスが作れない」、「無理に仕掛けて奪われると危ない」と思わせ、不安、疑い、焦燥感を募らせることで、試合を自分たちのペースに持ち込むのが、CLにおけるインテルの戦い方だった。
ところがこの決勝では、この2点がどちらも、パリSGがピッチ上に作り出した技術的・戦術的優位によって揺さぶられ、無化されてしまった。ボールを持たせて受けに回る展開そのものは、インテルが自ら望んだものだった。しかし、5-3-2ブロックはパリSGの揺さぶりに耐えられずに秩序を乱して割れ目が開き、ボールを奪っても強烈なプレスの前に出口を見出せないまま追い詰められ、逆襲に転じる間もなく奪い返された。
パリSGの優位性を作り出したのは、何よりもまず強烈きわまりない、そしてきわめて組織的な連携の取れたプレッシングだった。パリSGにとってこのプレッシングこそが最も重要な武器であること、そしてインテルに対しそれを真っ向から振りかざして戦う強い意志を持っていることは、キックオフの瞬間からすでに明らかだった。
センターサークルに立っていたヴィティーニャは、主審がホイッスルを吹くや否や、そこにあったボールを直接、インテル陣内深くのサイドラインへと蹴り出したのだ。これはミスではなく、インテルに対する挑戦状だった。
インテルにボールを渡すのをまったく怖がっていないどころか、渡したボールを激しいプレッシングで即時奪回することによってインテルを困難に陥れ、ボールと地域だけでなく精神的な主導権までも手に入れる明確な意思表示だった。そして試合はまさにそのように進んでいく。
ルイス・エンリケ監督は、考え得る最も勇敢かつリスキーなやり方でパリSGのプレッシングを組織した。最後尾ではCBペア(マルキーニョス、ウィリアン・パチョ)がインテル2トップと2対2の同数になるリスクを受け容れ、最前線から激しいマンツーマンハイプレスを仕掛けたのだ。
インテルはボールを持っても、フィールドプレーヤー全員がマンツーマンでプレッシャーを受けているため、前方に出しどころが見つからない。仕方なく唯一のフリーマンであるGKヤン・ゾマーにボールを戻すと、それまでフランチェスコ・アチェルビを見ていたウスマン・デンベレが、全速力でプレッシャーをかけにいく。
特筆すべきは、その強度はもちろんコース取りやプレッシャーの角度も非常に適切だったこと。これまでビルドアップの起点となり質の高いボールを供給するキーマンとして機能してきたゾマーは、落ち着いてボールをさばく時間とスペースが持てないだけでなく、デンベレが背中で消しているアチェルビも含め、ボールを委ねるべきフリーマンを見つけられなかった。
そうなった時の「出口」は主に前線のマルキュス・テュラムや右WBのデンゼル・ドゥムフリースへのロングフィードなのだが、デンベレのプレスの速さと強度は、それすらも不正確にした。ゾマーのロングフィードがここまで乱れ、前線に収まらなかったのは珍しい。
マンツーマンハイプレスに対してインテルが持っているもうひとつの「出口」は、左サイドに開いたアレッサンドロ・バストーニ、フェデリコ・ディマルコ、ヘンリク・ムヒタリアンの連携が取れたコンビネーションだ。しかし、バストーニやディマルコがある程度時間とスペースのある状態でパスを受けたり、スペースに動いてパスを引き出そうとしても、デジレ・ドゥエやデンベレが執拗な二度追い、三度追いでプレッシャーをかけ、ボールを奪い返してしまう。
結局インテルは「八方塞がり」と言うしかない状況に追い込まれ、自陣から出ることすらままならないまま、最初の20分で2失点を喫することになった。後から振り返れば、試合の大勢はこの時点で決していたと言ってよかった。
0-5というのは、CLはもちろん欧州カップ戦のファイナル史上最も大きな点差。そして試合もそのスコアに十分見合うだけの圧倒的な内容だった。いくつもの強敵を倒して勝ち上がってきた最強チームの対決、欧州最高峰の決戦がここまで一方的な展開になるとは、おそらく誰も予想していなかったに違いない。
インテルがここまで手も足も出なかった理由はどこにあったのだろうか。対戦相手との力関係、戦術的な相性そのものは、準々決勝バイエルン戦、準決勝バルセロナ戦と、大きな違いはなかった。「ボールと地域を支配して戦う」相手に対して、「ボールを持たずに試合をコントロールする」インテルという構図である。しかしこの試合でのインテルは、「ボールを持たない」のはいつも通りだったにしても、それを通じて「試合をコントロールする」ことができなかった。パリ・サンジェルマンにその術を完全に奪われてしまったからだ。
準決勝までのインテルが見せてきた強さは、ボールを持っていなくとも相手に対して精神的な優位を失わずに戦えるところにあった。その土台となってきたのは、5-3-2ローブロックによる堅固な守備、そしてボール奪取後の素早い縦展開による逆襲速攻である。この2つによって、相手に「攻め込んでいるのにチャンスが作れない」、「無理に仕掛けて奪われると危ない」と思わせ、不安、疑い、焦燥感を募らせることで、試合を自分たちのペースに持ち込むのが、CLにおけるインテルの戦い方だった。
ところがこの決勝では、この2点がどちらも、パリSGがピッチ上に作り出した技術的・戦術的優位によって揺さぶられ、無化されてしまった。ボールを持たせて受けに回る展開そのものは、インテルが自ら望んだものだった。しかし、5-3-2ブロックはパリSGの揺さぶりに耐えられずに秩序を乱して割れ目が開き、ボールを奪っても強烈なプレスの前に出口を見出せないまま追い詰められ、逆襲に転じる間もなく奪い返された。
パリSGの優位性を作り出したのは、何よりもまず強烈きわまりない、そしてきわめて組織的な連携の取れたプレッシングだった。パリSGにとってこのプレッシングこそが最も重要な武器であること、そしてインテルに対しそれを真っ向から振りかざして戦う強い意志を持っていることは、キックオフの瞬間からすでに明らかだった。
センターサークルに立っていたヴィティーニャは、主審がホイッスルを吹くや否や、そこにあったボールを直接、インテル陣内深くのサイドラインへと蹴り出したのだ。これはミスではなく、インテルに対する挑戦状だった。
インテルにボールを渡すのをまったく怖がっていないどころか、渡したボールを激しいプレッシングで即時奪回することによってインテルを困難に陥れ、ボールと地域だけでなく精神的な主導権までも手に入れる明確な意思表示だった。そして試合はまさにそのように進んでいく。
ルイス・エンリケ監督は、考え得る最も勇敢かつリスキーなやり方でパリSGのプレッシングを組織した。最後尾ではCBペア(マルキーニョス、ウィリアン・パチョ)がインテル2トップと2対2の同数になるリスクを受け容れ、最前線から激しいマンツーマンハイプレスを仕掛けたのだ。
インテルはボールを持っても、フィールドプレーヤー全員がマンツーマンでプレッシャーを受けているため、前方に出しどころが見つからない。仕方なく唯一のフリーマンであるGKヤン・ゾマーにボールを戻すと、それまでフランチェスコ・アチェルビを見ていたウスマン・デンベレが、全速力でプレッシャーをかけにいく。
特筆すべきは、その強度はもちろんコース取りやプレッシャーの角度も非常に適切だったこと。これまでビルドアップの起点となり質の高いボールを供給するキーマンとして機能してきたゾマーは、落ち着いてボールをさばく時間とスペースが持てないだけでなく、デンベレが背中で消しているアチェルビも含め、ボールを委ねるべきフリーマンを見つけられなかった。
そうなった時の「出口」は主に前線のマルキュス・テュラムや右WBのデンゼル・ドゥムフリースへのロングフィードなのだが、デンベレのプレスの速さと強度は、それすらも不正確にした。ゾマーのロングフィードがここまで乱れ、前線に収まらなかったのは珍しい。
マンツーマンハイプレスに対してインテルが持っているもうひとつの「出口」は、左サイドに開いたアレッサンドロ・バストーニ、フェデリコ・ディマルコ、ヘンリク・ムヒタリアンの連携が取れたコンビネーションだ。しかし、バストーニやディマルコがある程度時間とスペースのある状態でパスを受けたり、スペースに動いてパスを引き出そうとしても、デジレ・ドゥエやデンベレが執拗な二度追い、三度追いでプレッシャーをかけ、ボールを奪い返してしまう。
結局インテルは「八方塞がり」と言うしかない状況に追い込まれ、自陣から出ることすらままならないまま、最初の20分で2失点を喫することになった。後から振り返れば、試合の大勢はこの時点で決していたと言ってよかった。
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