「アッズーリへの帰属意識」を強調したのは、ガットゥーゾ自身もまた同じだった。会見は、「夢が現実になった。連絡を受けた時、まったく躊躇はなかった。簡単な仕事でないことは十分わかっているが、人生に簡単なことなどひとつもない。やるべきことは多いが、いい仕事ができるという確信もある。なぜなら、ここには強いチームがあるからだ。彼らの持てる力を最大限に引き出して、イタリアをワールドカップに連れ戻すことが目標だ」と、いわば紋切り型のコメントからスタートした。しかし、1時間に及んだ会見で費やされた言葉の多くは「帰属意識」「結束」「ファミリー」といった、メンタリティの側面にかかわるものだった。
「今のアッズーリに必要なのは、情熱と意欲、一丸となって困難に立ち向かう結束だ。私は明確な考えを持っている。ファミリーを再構築しなければならない。システムや戦術よりもそちらの方が重要だ」
「マルチェロ・リッピが代表監督として成し遂げたことを自分もできればと思っている。ワールドカップを勝ち取ることではなく、あのロッカールームの化学反応、グループの結束をもう一度作り出したい。私たちがそうだったように、コベルチャーノ(代表のトレーニングセンター)に笑顔でやって来て、心地よく過ごす選手たちを見たい。もちろん、私がプレーしていた当時とは時代が違う。選手の世代も変わっている。彼らが我々に合わせるのではなく、我々が彼らに合わせる必要がある。彼らの心に入り込み、対話し、向き合うことが重要だ」
「最初に会長とジジ(ブッフォン)に頼んだのは、代表に招集された選手は、軽い故障があっても必ずコベルチャーノに来て、チームと一緒に過ごすこと。ここには優秀なドクターもフィジオセラピストもいる。もし治らなければ試合に出ずにクラブに戻ればいい。重要なのは1日でも長く皆が一緒にいることだ」
「選手たちに最初に言うのは、ファミリーの一員として、どんな時も面と向かって話すこと。ピッチ上ではいつでも簡単に困難に陥るものだ。そういう時に1人になり、チームメイトの声が聞こえなくなると、90分は永遠のように長く感じるものだ。そうならないためには、常に助け合うこと、言いにくいことや耳に痛いことでも面と向かって口に出し、耳を傾けることが必要だ。それなしで成長することはできない」
「アッズーリへの帰属意識」をベースに、結束の強いグループを再構築することに何よりも重きを置くという観点に立つならば、こうしたコメントを発するガットゥーゾを監督に据えるのは、それなりに理に適った、筋の通った選択だと言えるかもしれない。
しかしもちろん、帰属意識や結束だけで、ここまでイタリア代表が抱えてきた問題がすべて解決できるか、ワールドカップへの道が拓けるのかとなると、話がそう単純ではないことは明らかだ。監督としての手腕が問われるもうひとつの重要な側面が、ピッチ上で見せるサッカーの質、チームとしてのパフォーマンスであることは言うまでもない。
その点についてブッフォンはこう語っている。
「私は長い選手キャリアの中で、リーノが率いるチームと対戦してきた。確かなのは、そのたびに大きな困難に直面したということだ。リーノの率いるチームには明確なアイデンティティーがあり、その背後には監督の仕事が見て取れた。ピッチに立てば優秀な監督の手腕は自ずと感じ取れるものだ。ミランにもナポリにもそれが確かにあった。もちろん、彼の一番目につくわかりやすい特徴は、闘志であり情熱であり献身だ。それを取り上げることは誰にもできない。リーノはもう12年もヨーロッパ各地で仕事を重ね、向上と変化への意欲を持ち続けてきた。監督としての手腕は確かだ。レッテルを貼りつけるのは簡単だが、サッカーの世界で仕事をする者はそれに囚われず本質に目を向けなければならない」
そしてガットゥーゾ自身の発言からは、チームが目指す方向性がおぼろげながら浮かび上がってくる。
「今セリエAでは4割が3バック、6割が4バックで戦っている。しかし問題はそこではなく、ピッチ上でどのように振る舞おうとするかだ。ノルウェーとの得失点差をできる限り詰めようとするならば、敵陣でボールを保持し、チャンスを作り、相手にダメージを与えるチームを作らなければならない。重要なのは、それぞれの持ち味を発揮できる場所に選手を置くことだ。3バックか4バックかはそのうち固まるだろう」
「私が指揮してきたチームはどれも、質の高いサッカーを見せてきたと思っている。これは言うなと皆に言われたことだが、いま私のチームにガットゥーゾがいても、ピッチには送り出さないだろう。ピッチ上を引っかき回すような選手は今の私のサッカー観には合わない」
具体的にどのようなサッカーを見せるのか、イタリア代表が本来持っているポテンシャルをどこまで引き出せるのかは、9月5日と8日に組まれているワールドカップ予選(対エストニア、対イスラエル)まで待たなければならない。現時点で確かなのは、イタリア代表はガットゥーゾの下で、「アッズーリへの帰属意識」を柱に、「敵陣でボールを保持しゴールを奪うチーム」を目指して再スタートを切るということ。それが、イタリアに3大会ぶりのワールドカップ出場をもたらすのに十分であることを心から祈りたい。
文●片野道郎
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「マルチェロ・リッピが代表監督として成し遂げたことを自分もできればと思っている。ワールドカップを勝ち取ることではなく、あのロッカールームの化学反応、グループの結束をもう一度作り出したい。私たちがそうだったように、コベルチャーノ(代表のトレーニングセンター)に笑顔でやって来て、心地よく過ごす選手たちを見たい。もちろん、私がプレーしていた当時とは時代が違う。選手の世代も変わっている。彼らが我々に合わせるのではなく、我々が彼らに合わせる必要がある。彼らの心に入り込み、対話し、向き合うことが重要だ」
「最初に会長とジジ(ブッフォン)に頼んだのは、代表に招集された選手は、軽い故障があっても必ずコベルチャーノに来て、チームと一緒に過ごすこと。ここには優秀なドクターもフィジオセラピストもいる。もし治らなければ試合に出ずにクラブに戻ればいい。重要なのは1日でも長く皆が一緒にいることだ」
「選手たちに最初に言うのは、ファミリーの一員として、どんな時も面と向かって話すこと。ピッチ上ではいつでも簡単に困難に陥るものだ。そういう時に1人になり、チームメイトの声が聞こえなくなると、90分は永遠のように長く感じるものだ。そうならないためには、常に助け合うこと、言いにくいことや耳に痛いことでも面と向かって口に出し、耳を傾けることが必要だ。それなしで成長することはできない」
「アッズーリへの帰属意識」をベースに、結束の強いグループを再構築することに何よりも重きを置くという観点に立つならば、こうしたコメントを発するガットゥーゾを監督に据えるのは、それなりに理に適った、筋の通った選択だと言えるかもしれない。
しかしもちろん、帰属意識や結束だけで、ここまでイタリア代表が抱えてきた問題がすべて解決できるか、ワールドカップへの道が拓けるのかとなると、話がそう単純ではないことは明らかだ。監督としての手腕が問われるもうひとつの重要な側面が、ピッチ上で見せるサッカーの質、チームとしてのパフォーマンスであることは言うまでもない。
その点についてブッフォンはこう語っている。
「私は長い選手キャリアの中で、リーノが率いるチームと対戦してきた。確かなのは、そのたびに大きな困難に直面したということだ。リーノの率いるチームには明確なアイデンティティーがあり、その背後には監督の仕事が見て取れた。ピッチに立てば優秀な監督の手腕は自ずと感じ取れるものだ。ミランにもナポリにもそれが確かにあった。もちろん、彼の一番目につくわかりやすい特徴は、闘志であり情熱であり献身だ。それを取り上げることは誰にもできない。リーノはもう12年もヨーロッパ各地で仕事を重ね、向上と変化への意欲を持ち続けてきた。監督としての手腕は確かだ。レッテルを貼りつけるのは簡単だが、サッカーの世界で仕事をする者はそれに囚われず本質に目を向けなければならない」
そしてガットゥーゾ自身の発言からは、チームが目指す方向性がおぼろげながら浮かび上がってくる。
「今セリエAでは4割が3バック、6割が4バックで戦っている。しかし問題はそこではなく、ピッチ上でどのように振る舞おうとするかだ。ノルウェーとの得失点差をできる限り詰めようとするならば、敵陣でボールを保持し、チャンスを作り、相手にダメージを与えるチームを作らなければならない。重要なのは、それぞれの持ち味を発揮できる場所に選手を置くことだ。3バックか4バックかはそのうち固まるだろう」
「私が指揮してきたチームはどれも、質の高いサッカーを見せてきたと思っている。これは言うなと皆に言われたことだが、いま私のチームにガットゥーゾがいても、ピッチには送り出さないだろう。ピッチ上を引っかき回すような選手は今の私のサッカー観には合わない」
具体的にどのようなサッカーを見せるのか、イタリア代表が本来持っているポテンシャルをどこまで引き出せるのかは、9月5日と8日に組まれているワールドカップ予選(対エストニア、対イスラエル)まで待たなければならない。現時点で確かなのは、イタリア代表はガットゥーゾの下で、「アッズーリへの帰属意識」を柱に、「敵陣でボールを保持しゴールを奪うチーム」を目指して再スタートを切るということ。それが、イタリアに3大会ぶりのワールドカップ出場をもたらすのに十分であることを心から祈りたい。
文●片野道郎
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