ついに幕を開けた今季最後のテニス四大大会「全米オープン」。開幕日の現地８月24日には男女シングルス１回戦が行なわれ、大会初日から熱戦が繰り広げられた。しかし、2021年大会覇者のダニール・メドベージェフ（ロシア／男子13位）とベンジャミン・ボンジ（フランス／同51位）の試合では前代未聞のハプニングが発生し、会場が一時騒然となった。

　この試合は昨年11月の「モゼール・オープン」（ハード／ATP250）でツアー初優勝を飾ったボンジが、過去２勝０敗と分の良い元世界１位のメドベージェフを相手に序盤から主導権を握った。第１セットを6-3で先取すると、第２セットも7-5で奪って２セットアップとリード。さらに第3セットも4-4の第９ゲームでブレークを果たし、早くもあと１ゲームで勝利というところまで迫った。

　事件が発生したのは直後の第10ゲームだった。サービング・フォー・ザ・マッチとなったボンジは２度目のマッチポイントを迎え、ファーストサービスをネットに掛け、セカンドサービスのモーションに入った。ところがここで、コートサイドで試合の様子を撮影していた男性カメラマンは試合が終了したと勘違いしコート内に侵入。これを見た主審はカメラマンを制止し、セカンドサービスが第三者（カメラマン）により妨害されたことを理由に「ファーストサービスからのやり直し」を宣告した。

　これにメドベージェフが観客を煽りながら猛抗議。結局判定は覆らなかったもののしばらく野次やブーイングは収まらず、試合は約７分間にもわたる中断を余儀なくされた。
  　混乱の中、再開後のポイントを落としたボンジは勝利目前から痛恨のブレークバックを献上。タイブレークの末に6-7(5)で第３セットを奪われると、第４セットは足の痛みで満足に動けず0-6で落として２セットオールに持ち込まれた。

　それでも最後には冷静さを保ちながらプレーを続けたボンジに勝利の女神がほほ笑んだ。ファイナルセットを6-4で制し、３時間45分で決着。対メドベージェフ３連勝を飾り、マルコス・ギロン（アメリカ／同55位）との２回戦に駒を進めた。

　予想外の出来事を経て価値ある勝利をつかみ取ったボンジはオンコートインタビューで試合をこう振り返った。「あんな経験は初めてだった。会場が騒然としていたから、その後のプレーは非常に難しかったし、まさに荒れた雰囲気だった。それでも落ち着いて試合に集中しようと努力した。簡単ではなかったが、最後には全力を尽くして勝つことができた」

　一方敗れたメドベージェフはこれで四大大会３大会連続の初戦敗退。試合終了後にはベンチに座ったまま数本のラケットを激しく叩きつけて破壊し悔しさをあらわにした。その後の記者会見では問題のシーンについて「カメラマンではなく、主審の判断に腹が立った」と言及したメドベージェフ。この後彼は主審への暴言やラケット破壊などによる多額の罰金を科される見込みとなっている。

　なお各種海外メディアの報道によると、カメラマンはハプニング発生後に退場を命じられ、大会を主催する全米テニス協会（USTA）から取材資格をはく奪されたという。

文●中村光佑

【動画】メドベージェフが主審に猛抗議した場面

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