男子テニスの元世界１位ボリス・ベッカー氏（ドイツ／57歳）が、かつて収監された刑務所での体験について「決して完全には回復できない」などと振り返った。

　これまで、刑務所生活が彼に及ぼした精神的影響について本人が語ったのは、釈放直後に受けたドイツＴＶ局インタビューなど限定的だったが、今回、新著『Inside』の発表会に妻リリアン・デ・カルバリョ・モンテイロ氏や息子ノア氏らと出席し、その体験を詳しく明かしている。

「刑務所を仕切っているのは看守ではなく囚人だった。私は４週間で７キロも痩せた。ストレスに加え、食事もなく、甘い物もアルコールも口にできなかった...独房は非常に寒く、本当に悪夢のようだった。トレーニングウェアに２枚のジャケット、２足の靴下を重ね、頭にはタオルを巻いて眠っていた」

　刑務所内での厳しい生活にはさらに衝撃的なエピソードがあった。獄中でのギャンブルが原因でルーマニア人の囚人に700ユーロ（約10万円）の借金を負い、返済しなければ殴ると脅されたというのだ。

「ギャンブルは愚かで無謀だった。私はルーマニア人の囚人たちに700ユーロを借りていた。すると彼らは私の独房にやって来て、払わなければ殴ると脅した。友人が銀行振込でその借金を肩代わりしてくれなければ、私は今日ここにいなかったかもしれない。この経験は私に深い影響を与えた。これは私が残りの人生で大切に記憶していく思い出だ」
  　史上最年少でのウインブルドン制覇をはじめ、四大大会で６度の優勝を果たしたベッカー氏は、かつてマヨルカ島に所有していた不動産をめぐって5000万ポンド（約100億円）の負債を抱え、2017年に破産宣告を受けた。

　その後、250万ポンド（約５億円）の資産を隠したとして、22年４月に英国の破産法違反で有罪判決を受け、２年６カ月の実刑を言い渡された。同年４月末からロンドンのワンズワース刑務所、のちにハンタコム刑務所に収監。８カ月間の服役を経て12月に釈放されると、国外追放処分によりドイツに強制送還された。

　ベッカーは釈放後も公の場から姿を消すことはなく、メディア活動を続ける一方、23年10月には若手スターのホルガー・ルネ（デンマーク／現世界ランク11位）のコーチに就任。わずか４カ月で退任したが、北米ハードコートシーズンの不調を止め、ツアー最終戦に出場させている。また24年９月にはリリアン夫人と自身３度目の結婚。夫妻の間にはまもなく第一子が誕生予定である。

構成●スマッシュ編集部

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