25歳でテニスを始め、32歳でプロになった市川誠一郎選手は、夢を追って海外のITF(国際テニス連盟)大会に挑み続ける。雑草プレーヤーが知られざる下部ツアーの実情や、ヨーロッパのテニス環境を綴る転戦記。
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ヨーロッパと日本のテニス環境や指導法、考え方の違いについて述べてきた当コラム。ひと口にヨーロッパと言っても、その中で国による違いがあります。今回からしばらくは、各国で異なるテニスのスタイルについて綴りたいと思います。
まずはスペインです。スペインの指導はいまだにかなり古典的で、多くの方が想像する通り、ネット上のかなり高い所を通して、強いスピンボールを打たせる傾向が強いです。
僕は1年間スペインでトレーニングしていたことがありますが、とにかく何でもいいから「力強い、重いスピンボールをクロスに打ち続けろ」という指導でした。打ち方については、下半身からの力、後ろから前、下から上、弧を描くスイング...といった、本当にシンプルで基礎的な指導だけ。
僕は自分の打ち方に対して劣等感が強く、「これでいいのか? これじゃダメだと思う」と訴えても、「それで問題ない、今のボールを見てみろ、いいボールだ!」という調子です。僕が神経質になることには、そんなに取り合ってくれませんでした。
一方で、弾道と戦術についての指導は徹底しています。主なものを挙げると――
・絶対にネットしない
・ベースラインから1~3メートル下がったら、ネットの1~3メートル上を通す
・シングルスのサイドラインより外からはストレートに打ってはいけない
・ベースラインより後ろでドロップショットを打ってはいけない
といったことです。このルールを破ると、ポイントを取っても腕立て伏せなどをさせられていました。
これはかなり古典的なクレーコートの基礎戦術で、現代テニスからは遅れているように思えますが、特にジュニア期にテニスの基礎としてこれを叩き込むことは非常に重要です。学んでいる時にはナンセンスだと感じたけど、これが身体に染みついたことで、「下らないミスを全くしなくなった」「テニスの戦術の基礎が身に付いた」と後に話す選手もいました。
もちろん、テニスは相手との駆け引きで、特に年齢が上がって成熟すれば、より様々な戦術が生まれることは指導者も理解していますが、低年齢ジュニア期は、あえて厳しくこの基礎を埋め込むのです。
この指導により、クレーコートで3時間プレーでき、自分からは決して負けない、スペイン選手の力強いテニスの土台が作られています。この土台の上に「個性」が乗せられていくのです。
文●市川誠一郎
〈PROFILE〉
1984年生まれ。開成高、東大を卒業後ゼロからテニスを始め、32歳でプロ活動開始。36歳からヨーロッパに移り、各地を放浪しながらITFツアーに挑んでいる。2023年5月、初のATPポイントをダブルスで獲得。Amebaトップブロガー「夢中に生きる」配信中。ケイズハウス/HCA法律事務所所属。
【画像】雑草プロの世界転戦記・ヨーロッパのテニスアカデミーでの日常風景
【画像】雑草プロの世界転戦記・ヨーロッパ各国の下部ツアーの風景
【画像】雑草プロの世界転戦記・ヨーロッパのジュニア大会情景集
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ヨーロッパと日本のテニス環境や指導法、考え方の違いについて述べてきた当コラム。ひと口にヨーロッパと言っても、その中で国による違いがあります。今回からしばらくは、各国で異なるテニスのスタイルについて綴りたいと思います。
まずはスペインです。スペインの指導はいまだにかなり古典的で、多くの方が想像する通り、ネット上のかなり高い所を通して、強いスピンボールを打たせる傾向が強いです。
僕は1年間スペインでトレーニングしていたことがありますが、とにかく何でもいいから「力強い、重いスピンボールをクロスに打ち続けろ」という指導でした。打ち方については、下半身からの力、後ろから前、下から上、弧を描くスイング...といった、本当にシンプルで基礎的な指導だけ。
僕は自分の打ち方に対して劣等感が強く、「これでいいのか? これじゃダメだと思う」と訴えても、「それで問題ない、今のボールを見てみろ、いいボールだ!」という調子です。僕が神経質になることには、そんなに取り合ってくれませんでした。
一方で、弾道と戦術についての指導は徹底しています。主なものを挙げると――
・絶対にネットしない
・ベースラインから1~3メートル下がったら、ネットの1~3メートル上を通す
・シングルスのサイドラインより外からはストレートに打ってはいけない
・ベースラインより後ろでドロップショットを打ってはいけない
といったことです。このルールを破ると、ポイントを取っても腕立て伏せなどをさせられていました。
これはかなり古典的なクレーコートの基礎戦術で、現代テニスからは遅れているように思えますが、特にジュニア期にテニスの基礎としてこれを叩き込むことは非常に重要です。学んでいる時にはナンセンスだと感じたけど、これが身体に染みついたことで、「下らないミスを全くしなくなった」「テニスの戦術の基礎が身に付いた」と後に話す選手もいました。
もちろん、テニスは相手との駆け引きで、特に年齢が上がって成熟すれば、より様々な戦術が生まれることは指導者も理解していますが、低年齢ジュニア期は、あえて厳しくこの基礎を埋め込むのです。
この指導により、クレーコートで3時間プレーでき、自分からは決して負けない、スペイン選手の力強いテニスの土台が作られています。この土台の上に「個性」が乗せられていくのです。
文●市川誠一郎
〈PROFILE〉
1984年生まれ。開成高、東大を卒業後ゼロからテニスを始め、32歳でプロ活動開始。36歳からヨーロッパに移り、各地を放浪しながらITFツアーに挑んでいる。2023年5月、初のATPポイントをダブルスで獲得。Amebaトップブロガー「夢中に生きる」配信中。ケイズハウス/HCA法律事務所所属。
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【画像】雑草プロの世界転戦記・ヨーロッパのジュニア大会情景集