先日行なわれた男子テニスツアー公式戦「ロレックス上海マスターズ」（中国・上海／ハードコート）の決勝で従兄弟のアルテュール・リンダークネシュ（フランス／大会時54位）に勝利し、モナコ人選手として初となるツアータイトルを四大大会に次ぐマスターズ1000の大舞台で獲得したバレンティン・バチェロット（26歳）。大会時に204位だった世界ランキングは一気に40位へジャンプアップし、キャリア初のトップ50入りという大きなマイルストーンも手に入れた。

　また今回の優勝でバチェロットは、「ハンブルク・オープン」（ドイツ・ハンブルク／クレーコート）で1996年のロベルト・カレテロ（スペイン／元58位）、2001年のアルベルト・ポルタス（スペイン／元19位）以来、予選からマスターズを制すという男子選手史上３人目の快挙も達成。この結果には本人も「信じられない」と驚きを隠せなかった。

　ただこのバチェロットの記録ずくめの優勝を誰よりも喜んでいるのは、元選手でコーチのベンジャミン・バレレ氏（モナコ／元204位／42歳）かもしれない。というのも２人は異母兄弟であり、“家族”としても苦楽を共にしてきた特別な関係だからだ。

　バレレ氏はATP（男子プロテニス協会）のインタビューにて、バチェロットが主戦場としてきた下部大会でも結果が出ていなかったことを振り返りつつ、次のように語る。

「ここまでの道のりは長かった。バル（バチェロットの愛称）は家族の一人でもあるから、負けが続くと本当につらい。互いに信じる気持ちを失いかけていた時期もあった。僕自身は常に彼に勝たせたいという気持ちが強いし、それが兄弟となればなおさらだ。浮き沈みはたくさんあったけど、こうして今、バルがマスターズのチャンピオンになったことは、本当に信じられない気持ちだよ」
  　今大会の序盤、チームは４回戦で前回覇者のヤニック・シナー（イタリア／現２位）と対戦することを目標にしていたという。しかしそのシナーは３回戦でタロン・フリークスポール（オランダ／同27位）に敗戦。かたやバチェロットは４回戦でフリークスポール、準々決勝でホルガー・ルネ（デンマーク／同11位）を破り、準決勝では四大大会24勝を誇る元世界１位のノバク・ジョコビッチ（セルビア／同５位）にも勝利して決勝へ駒を進めた。

　そして最後はノーシードから快進撃を見せてきたリンダークネシュも撃破し、“テニス版おとぎ話”と呼ぶにふさわしいストーリーを完結。バレレ氏は今大会を総括する形でこう続ける。

「ジョコビッチと一度でも戦えるだけでもすごいと思っていたのに、そこでも勝ってしまったからさらに驚いた。そして決勝の相手が従兄弟のアルテュールだなんて……みんなが言うように、まるで映画というか、おとぎ話そのものだよ。我々は今まさにおとぎ話の世界にいるような気分だ」

　それでも今回の優勝はゴールではなく、「単なる始まりに過ぎない」とバレレ氏。最後は「優勝後はチームで『もっと上に行こう』と話したよ。これからがどうなるか楽しみだ」と今後への意欲を明かし、インタビューを締めくくった。

文●中村光佑

【動画】従兄弟対決となったバチェロット対リンダークネシュの上海マスターズ決勝ハイライト

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