毎年世界中のファンから注目を集めるテニス四大大会（全豪、全仏、ウインブルドン、全米）。そんな最高峰の大会において長年議論されてきたのが、シングルスにおける男女の“セット数”の違いだ。

　周知の通り男子は通常のツアー大会では３セットマッチ（２セット先取）だが、四大大会では５セットマッチ（３セット先取）が採用されている。一方、女子はツアーも四大大会も一貫して３セットマッチとなっており、この違いをめぐっては、現役選手の間でも様々な意見が出ている。一例を挙げると、男子元13位のニック・キリオス（オーストラリア／現668位）は以前、英メディア『talkSPORT』を通じ、次のように主張していた。

「準々決勝までは男子も３セットにすべき。それなら長時間の試合による進行の遅れも減る上に、番狂わせも多くなるだろう。新たなチャンピオンも増えるはずだ」

　一方、昨年のパリ五輪で現役を引退した四大大会３勝のレジェンド、アンディ・マリー氏（イギリス／元１位／38歳）も、先日テニス系ポッドキャスト『The Tennis Podcast』のYoutubeに出演した際、選手時代は５セットマッチを好んでいたが、いち観客になった今はそうではないと正直に語っている。

　ちなみにマリー氏の現役時代の四大大会５セットマッチにおける通算戦績は25勝13敗で、勝率は65.8%を記録。意外にも同カテゴリー決勝で５セットマッチを戦ったのは、盟友ノバク・ジョコビッチ（セルビア／現４位）に勝利して初のグランドスラム・タイトルを獲得した2012年全米オープンの１度だけである。
  「試合が長くなるほど立て直せるチャンスが増えるから、現役の頃は５セットマッチが好きだった。ただ観客としては、それを最初から最後まで見ることはない。単純に試合時間が長すぎる。僕の場合は家族もいるし、やることもたくさんあるからね」

　続けてマリー氏は、男女共にツアーの過密日程が問題視されていることについても言及。「今のテニス界は何を問題とし、何を変えたいのか、共通認識がはっきりしていない」と前置きし、自身の考えをこう口にした。

「20年前も賞金やツアー日程、試合数などについての議論が交わされていた。だがトップ選手とランキング下位の選手ではニーズが違う。トップ選手は『試合が多すぎる』と言う一方、下位選手は賞金やランキングポイントを稼ぐために、逆に試合数が多くなることを望む傾向がある。

　今のトップ選手は『試合数が多い』と言いながら、全米オープンで新方式の混合ダブルスを開催すると『最高だ』とか言ってこぞって参加していたし、28年にサウジアラビアで新たなマスターズ大会の開催が発表された時も『出てみたい』との声があった。結局は各方面の利害が食い違いすぎて、全員の意見が一致することはほぼない。何をどう変えるべきかを決めるのは本当に難しい」

　マリー氏のコメントには、昨今のテニス界の“リアル”が反映されている。同時にその複雑さから生み出された問題点をどう解決するのかが、今後の課題となりそうだ。

文●中村光佑

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