第2セットの第3ゲームを終えた時、デニス・シャポバロフはトレードマークのキャップを脱ぎ、ネットに向かい歩んでいった。握手を交わすのと前後して、カルロス・アルカラスの勝利がアナウンスされる。
男子テニスツアー「木下グループ ジャパンオープン」3回戦。シャポバロフの棄権により、前年王者のアルカラスがベスト4に進出した。勝利後恒例のカメラサインで、アルカラスは「Be back soon, Denis」と、シャポバロフの早期回復を願う文字を書き入れる。
アクシデントが起きたのは、第2セットの最初のポイント。ストレートに叩き込まれたアルカラスの強打を、シャポバロフが全力で追った時だ。直後に股関節の辺りを押さえ、トレーナーを要求するシャポバロフ。第1ゲーム後に治療を受けるも、試合を続けるには至らなかった。
「これは、望んでいた試合の終わり方ではない」
試合直後のインタビューでも、そして会見でも、勝者は同じ言葉を繰り返す。確かに、幕切れは誰にとっても残念な形だった。ただ、第1セットのエンターテインメント性に満ちた攻防は、満員のファンを満足させるに十分だったろう。
現在27歳のシャポバロフは、21歳でトップ10入りし、「テニス界の次期王者候補」と目されていた。ケガもあり現在はランキングを落としているも、しなやかな左腕から繰り出すサービスやストロークは、多彩にして雄大。特に片手バックハンドは、ツアー屈指のダイナミックさを誇っている。
対するアルカラスは、サービスゲームに苦しんだ。それでもリターンゲームで、無類の勝負強さを発揮する。時にベースラインから大きく下がり、時にライン上で構え、そこから多彩な攻めを展開した。ネットに出てボレーを決めたかと思えば、ネットぎりぎりを越えるドロップショットを沈める。
タイブレークでも相手に先行されるが、そこからロブ、フォアのパッシングショット、さらにはスマッシュでウイナーを連発した。セットポイントは、“何でもできる”アルカラスの真骨頂。ベースラインでの打ち合いから一転、ドロップショットで相手を誘い出した。ネットに出るシャポバロフを前にして、打つのはロブか、あるいは強打のパッシングショトか――。
見る者がそれらの選択肢を頭に思い浮かべる中、アルカラスが選んだのは、ネット際に沈む柔らかなアングルショット。この日一番の大歓声が、スタジアムを包んだ。
アルカラスは、手首のケガによる4カ月のツアー離脱から復帰して、まだひと月。今大会では長距離移動や調整の難しさもあり、まだ本来の感覚を取り戻し切ってはいないだろう。それでも戦略性と手札の数で、勝つすべを彼は知る。リターンポジションについても、彼は次のように説明した。
「リターンでは、相手に色々と考えさせることが大切だ。ポジションを変えることで、相手に得意なコースにサービスを打たせなくさせられるかもしれない。サーブ&ボレーにも迷いが出るだろう。また、自分のフィーリングによっても変わってくる。ストロークが良いと感じたら、長いラリーに持ち込むようにしている」
これぞ王者の懐の深さ。
手探りながら、それでも強さとテニスの楽しさを示し、アルカラスが進んでいく。
取材・文●内田暁
【動画】アルカラスがベスト4進出! シャポバロフが負傷棄権するまでのジャパンOP準々決勝ハイライト
【厳選ショット】屈指の好カードは思わぬ形で幕切れ。シャポバロフの途中棄権でアルカラスがジャパンOP4強進出!
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アクシデントが起きたのは、第2セットの最初のポイント。ストレートに叩き込まれたアルカラスの強打を、シャポバロフが全力で追った時だ。直後に股関節の辺りを押さえ、トレーナーを要求するシャポバロフ。第1ゲーム後に治療を受けるも、試合を続けるには至らなかった。
「これは、望んでいた試合の終わり方ではない」
試合直後のインタビューでも、そして会見でも、勝者は同じ言葉を繰り返す。確かに、幕切れは誰にとっても残念な形だった。ただ、第1セットのエンターテインメント性に満ちた攻防は、満員のファンを満足させるに十分だったろう。
現在27歳のシャポバロフは、21歳でトップ10入りし、「テニス界の次期王者候補」と目されていた。ケガもあり現在はランキングを落としているも、しなやかな左腕から繰り出すサービスやストロークは、多彩にして雄大。特に片手バックハンドは、ツアー屈指のダイナミックさを誇っている。
対するアルカラスは、サービスゲームに苦しんだ。それでもリターンゲームで、無類の勝負強さを発揮する。時にベースラインから大きく下がり、時にライン上で構え、そこから多彩な攻めを展開した。ネットに出てボレーを決めたかと思えば、ネットぎりぎりを越えるドロップショットを沈める。
タイブレークでも相手に先行されるが、そこからロブ、フォアのパッシングショット、さらにはスマッシュでウイナーを連発した。セットポイントは、“何でもできる”アルカラスの真骨頂。ベースラインでの打ち合いから一転、ドロップショットで相手を誘い出した。ネットに出るシャポバロフを前にして、打つのはロブか、あるいは強打のパッシングショトか――。
見る者がそれらの選択肢を頭に思い浮かべる中、アルカラスが選んだのは、ネット際に沈む柔らかなアングルショット。この日一番の大歓声が、スタジアムを包んだ。
アルカラスは、手首のケガによる4カ月のツアー離脱から復帰して、まだひと月。今大会では長距離移動や調整の難しさもあり、まだ本来の感覚を取り戻し切ってはいないだろう。それでも戦略性と手札の数で、勝つすべを彼は知る。リターンポジションについても、彼は次のように説明した。
「リターンでは、相手に色々と考えさせることが大切だ。ポジションを変えることで、相手に得意なコースにサービスを打たせなくさせられるかもしれない。サーブ&ボレーにも迷いが出るだろう。また、自分のフィーリングによっても変わってくる。ストロークが良いと感じたら、長いラリーに持ち込むようにしている」
これぞ王者の懐の深さ。
手探りながら、それでも強さとテニスの楽しさを示し、アルカラスが進んでいく。
取材・文●内田暁
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