ウインブルドンに思いを馳せ、過去の名勝負の記事をシリーズで掲載。今回は2001年の男子決勝、ゴラン・イバニセビッチ対パトリック・ラフターだ。「主催者推薦で優勝した選手はいない」というジンクスを破り、初優勝を果たしたイバニセビッチのストーリー。

　　　◆　　　◆　　　◆

　豪打の持ち主というのは、意外に繊細で、時に必要以上に考えすぎる傾向がある。このイバニセビッチがそうだ。

　数年前まではトップ10の常連だったイバニセビッチも、今年で29歳。左肩の故障が悪化したこの数年間は低迷を続け、大会直前のランキングは125位。今大会も主催者推薦枠での出場だった。過去準優勝３回という実績はあるが、今年のウインブルドンの「改革」の目玉の１つとして、彼に主催者推薦が与えられたというのも間違った見方ではないだろう。正直なところ、当初の大会側の彼の扱い方はその程度だったはずだ。

　男子決勝はイバニセビッチ対ラフター。イバニセビッチのテニスは相手が誰であっても変化はしない。彼が勝つ時は、気分よくサービスが決まった時であり、負ける時はいつも自滅だった。今大会でも、それは同じだ。決勝でも、ブレークを許したのは、第１セットを取った直後にやや緊張したのか、腕が縮こまった第２セットの第２ゲームと、判定に激昂してネットを蹴り上げた第４セット第６ゲームだけ。

　試合前に左肩痛が再発し、「なんてこった！　頼む、今日だけでいいから動いてくれ！」と祈っていたというが、気合が充実してくれば、彼のサービスは、やはりアンタッチャブルだった。
  　４度目の決勝。サンプラスを除けば、この10年で最も決勝の舞台にコマを進めたこの男は、前日に天使と取引をしていた。もし、今日勝てるならテニスが二度とできなくなってもいいと。

　決勝が月曜日に延期されたとあって、いつもとはボルテージが違う、まるでサッカー場のような満員の観客の大声援の中で、フルセットの激戦の末、悲願は達成された。最終ゲームとなった第16ゲームはほとんどエースかダブルフォールト。まったく彼らしい幕切れだった。

　優勝後、「夕べはよく寝れなくて、天使には会えなかったんだ。だからテニスを続けられるんだ。だって、来年はまっさらな初日のセンターコートでやれるんだぜ！」と彼は照れながら語った。

◆2001年男子決勝
G・イバニセビッチ［6-3 3-6 6-3 2-6 9-7］P・ラフター

構成●スマッシュ編集部
※スマッシュ2001年９月号から加筆・再編集

【PHOTO】グランドスラムってこんな感じ！ 大会スナップ写真