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海外テニス

「リスクを取らぬ者に、シャンパンを飲む資格はない」ロシアの格言を遂行したメドベージェフ。2セットダウンからの猛追劇

内田暁

2019.09.09

2セットダウンからファイナルに持ち込んだメドベージェフ。写真:山崎賢人(スマッシュ写真部)

2セットダウンからファイナルに持ち込んだメドベージェフ。写真:山崎賢人(スマッシュ写真部)

全米オープン男子決勝/9月8日(現地時間)
R・ナダル(ESP) 7-5 6-3 5-7 4-6 6-4 D・メドベージェフ(RUS)


 試合開始から2時間15分が経過し、2セットを先取したナダルが第3セットでも先にブレークした時に、いったい誰が、この先に待ち受けるドラマを予測できただろう? 

 それは敗戦まで4ゲームに追い込まれた、メドベージェフすら同じだった。「これから20分後に、僕は表彰式でスピーチをすることになるんだな。いったい、何を話そう……?」。チェンジエンドのベンチに座る彼の、脳裏をよぎったのは、そんな思いだった。
 
 だが次の瞬間に、彼はその考えを打ち消す。「試合がどうなるかではなく、とにかく目の前の1ポイントずつに集中しよう」。
 
 そしてその決意どおり、彼は次のゲームで目の前のボールに全精力を注ぎ込むかのように、前後左右に走り、ボールを相手コートにねじ込んだ。デュースの場面で、ナダルが決定的なボレーを外すという、少しばかりの運にも恵まれる。最後は、ナダルのショットが長くなって手にしたブレーク。この時、メドベージェフは「何かが噛み合い出した」と感じたという。
 メドベージェフがこの時に覚えた手応えは、決して、突如として僥倖的に訪れたわけではない。ここまでの2セットと6ゲームの間、彼は「可能なことは、全て試してきた」と言った。「いろんなことをやったが、その全てに対しラファは答えを示した。だからまた、新しいことを試した。ネットに出て、時にはドロップショットやスライスも打ってみた」。

 常に劣勢に身を置くも、諦めることなく2時間以上続けた試行錯誤。その成果がようやく実を結びだしたのが、このゲームだった。
 
 第8ゲームを2度のデュースの末にキープした時、2万5千人の観客は、勇猛な23歳へと大きなエールを送り出す。ネットすれすれを直線的な軌道でかすめるフラットの強打は、常にミスと背中合わせの諸刃の剣。だが、「リスクを取らぬ者に、シャンパンを飲む資格はない」というロシアの格言に従順な若者は、恐れることなく攻めていく。第12ゲームで、快音を響かせ3本のウイナーを決めたメドベージェフが、まずはセットを1つ取り返した。

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