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【テニスギア講座】ラケットの主要素材「カーボン」ってどんなもの? 意外に知られていないフレームの中身

松尾高司

2020.07.15

かつてのウッドラケットはどれもほぼ同形状で、同じ70平方インチのサイズ。カーボン製となった現在のラケットは自由度が高まり、多種多彩な形状だ。写真:THE DIGEST写真部

 現代のテニスラケットはカーボン繊維を樹脂で固めて作られているらしい・・・くらいは知っていても、カーボン繊維自体のことは知らない方が多いでしょう。カーボン繊維とは炭素からできた繊維で、1本1本はとても細いのですが、束ねて樹脂で固めると極めて強靭で弾力性もある素材に変化します。

 その特性を利用し、かつて木製や金属製だったラケットを、カーボン繊維を主材にすることで、とても軽いのに丈夫な製品に変貌させることができました。これは「炭素繊維強化プラスティック」(CFRP)と呼びます。

 一口にカーボンと言っても、実は極めて多彩です。カーボン繊維は総称で、その中でも高温で焼成した堅牢で高品質なものを「グラファイト」と呼びました。さらに高品質なカーボン繊維を高密度化した「ハイモジュラスカーボン」の登場頃から、グラファイトなどの呼び名は消え始め、カーボンで統一化されるようになりました。

 カーボンが品質的に最も注目された点は、引っ張ったり、曲げたりする時の「弾性率」であり、ラケットに成型した時、軽量で剛性が高く仕上がるカーボンほど、高品質・高価とされる傾向にあります。
 
 ただし、フレームはまるごとカーボンではありません。ほぼ全てのラケットが「中空構造」で、しかも想像以上にフレームのシェル(本体を作る殻)は薄くできています。非常に薄いカーボンのシートを複数層重ね、それを筒状に丸めたシェルで構成されています。

 複数層の積層にするのは、フレームの強度やしなり、反発性能を自在にコントロールするためです。カーボンの繊維が走る方向が違うシートをフレーム全周に、あるいは部分的に重ねることで、強度の差を生み出すことができ、「ある部分はしなりやすく、でもここは硬くして、ここは特定方向にだけたわみやすく」という制御ができるのです。カーボン製フレームの中身は、非常に緻密に計算されているわけです。

 カーボン繊維を重ねただけではまだフニャフニャです。それを固めてくれるのが樹脂(熱硬化性樹脂=レジン)で、カーボンのシートを作る時に染み込ませてあり、金型内で加熱することで沁み出してカーボン積層を固めます。

 皆さんに知っておいてほしいのは、普段何気なく使っているラケットは、実はとても精密な構造物で、内部的に多様な違いがあるため、あれだけ多くの機種が存在するということです。

文●松尾高司(KAI project)

※『スマッシュ』2017年12月号より抜粋・再編集

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