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海外テニス

「負けるために夢は見ない――」大坂なおみの“発言”で振り返る全米名シーン。生まれ持った資質が垣間見えた2018年準決勝

内田暁

2020.09.04

2018年全米オープン準決勝。大坂は、キーズを圧倒して自身初のグランドスラム決勝進出を決めた。(C)GettyImages

2018年全米オープン準決勝。大坂は、キーズを圧倒して自身初のグランドスラム決勝進出を決めた。(C)GettyImages

 全米オープンで2度目の戴冠を狙う大坂なおみ。ここでは、彼女自身が同大会で残した「言葉」にフォーカスし、名シーンを振り返っていこう。第3回は、マディソン・キーズを破り、グランドスラムで初の決勝進出を決めた2018年大会準決勝後の発言だ。

   ◆    ◆    ◆

「私は、負けるために夢は見ないわ」――。

 いつものはにかんだような笑みとともに、小さな声でこぼした一言。しかしこの言葉には、大坂なおみという選手が持つ、万華鏡のようにカラフルで魅力的な人間性が凝縮されているようにも思えた。

 グランドスラムで優勝するなら、最初は全米オープンが良いと言っていた彼女。子どもの頃から描いていたその夢の、対戦相手はいつもセレナ・ウィリアムズだった。「夢の中の対戦では、どっちが勝ったの?」。準決勝のマディソン・キーズ戦を制し、夢の中に足を踏み入れた20歳に、会見の席で質問が飛ぶ。その時の彼女の答えが、冒頭に記した一言だった。
 
 コーチが「イノセント(無垢)」と形容し、米国のベテラン記者が「時に脆いと思われるほどに、繊細」と記した大坂の人となり。しかし同時に、コーチは彼女を「Killer Instinct=殺し屋の本能」の持ち主だとも言う。「それは誰もが持っているものではない。例えば僕にはない。一部の人だけが持って生まれた資質……与えられたギフトだということを、彼女には説明したんだ」。

 その「一部の人だけが持って生まれた資質」を、彼女は準決勝のコートで示した。屋根が閉まり、暗転したスタジアムの中でカクテル光線に照らし出されてコートに歩み出た彼女は、「とてもうれしかった」と明かす。第1セットの第3ゲームで瀕した3連続ブレークポイントの危機、そして第2セットの第2ゲームで8度のデュース――試合の分岐点になっただろうそれらのゲームの重要性を大坂は「Killer Instinct」で嗅ぎ分け、そして切り抜ける。

 敗れたキーズは試合後、「自分が悪いプレーだったとは全く思わない。ただ2つのゲームで、私は完璧なテニスができなかった。それだけ」と語った。さらに、「今回の大坂は、過去の対戦時と何か違ったか」と問われると、昨年の全米準優勝者は間髪入れず答えた。

「いつもと違ったプレーだったかはわからない。ただ今日の彼女は、決めるべき場面で、やるべきことを“execute”した」。“execute”とは、計画や作戦を“実行する”という意味で主に用いられる言葉。まさにこの日の大坂は、Killer Instinctを発揮し、遂げるべきミッションを実行したのだ。

 スコア以上の接戦を制したその先の、決勝の舞台で彼女を待つのは、テニスに出会った時から憧憬の目を向け続けてきた、セレナ・ウィリアムズ。「負ける夢は見ない」彼女は、夢を実行するために、夢のステージへと進んでいった。

◆2018年準決勝
大坂なおみ[6-2、6-4]マディソン・キーズ

取材・文●内田暁

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