海外テニス

「気づけばトロフィーを手にしていた」大坂なおみが全米優勝をたぐり寄せたターニングポイント

内田暁

2020.09.14

2度目の全米オープン優勝を果たした翌朝、ドレスアップしてフォトセッションに応じる大坂。(C)Getty Images

 コートに立つ彼女の足は、今大会戦った7試合のうち、明らかに一番重そうだった。それが、疲労の蓄積から来るだけではないことは、最初のゲームで飛び出したダブルフォールトと、こわばった表情からも想像できる。

 対するビクトリア・アザレンカは、恐ろしいまでに好調だった。最初のサービスゲームでは、ファーストサービスを全て入れ、ポイントを落とさない。その後のサービスゲームでも、やはり全てのファーストサービスを入れた。

 それらサービスの精度に加え、ストロークでも常に先んじて左右に打ち分け、大坂にコースを読ませない。特に目を引くのが、いかなる展開からでもピンポイントでコーナーを捉える、フォアハンドのダウンザライン。

 打ち合いで後手に回る大坂は、軽やかに放たれるアザレンカのストロークを、幾度も呆然と見送ることしかできない。試合開始から、わずか28分。アザレンカが6-1のスコアで、瞬く間にセットを奪った。
 
「ものすごく緊張していて、足が動かなかった。100%のプレーができると思ってはいなかったけれど、それでも70%は力が出せればいいなとか……頭でっかちになっていた」
 
 もつれた緊張感と思考の糸をほぐせぬまま、第2セットでも大坂は最初のサービスゲームを落とす。「もう自分にできることは、何もない……」諦めに心が覆われそうにもなったという。

 だが、「常に落ち着き、ポジティブでいること」をツアー再開後の最大の目標に掲げていた大坂は、自身の成長を自らに示した。

「6-1、 6-0で負けるわけにはいかない。少しでも相手を走らせよう」

 勝利やスコアではなく、「とにかく食らいつこう」としか考えられなかった彼女は、ブレーク直後の相手のサービスゲームで、40-30の劣勢から追い上げる。

 明らかに目の色の変わった大坂の姿に、アザレンカは幾分気圧されただろうか。第1セットを通じわずか3本しかミスをしなかったアザレンカが、このゲームでは2本連続でエラーを連ねる。

 大坂がこの試合、初めてつかみ取ったブレーク。そしてこのゲームこそが、両選手が後に、ターニングポイントに挙げた局面だった。