海外テニス

錦織圭を全仏初戦突破に導いた、30歳からの「ちっちゃなマイナーチェンジ」とは?【全仏テニス】

内田暁

2020.09.28

約1年1カ月ぶりとなるグランドスラム大会の全仏オープンで勝利を飾った錦織。(C)GettyImages

 一体、何から書き始めれば良いのだろう――。

 思わずそう自問してしまうほどに、複雑で多くの要素に満ちた、3時間49分におよぶ錦織圭の復帰後グランドスラム初勝利劇だった。
 
 いや……試合を劇的なものにした因子の発芽は、試合開始前から始まっていたと言える。

 地元の人々すら「例年より遥かに寒い」と震えるこの日のパリは、朝から霧雨舞い、空気は身を切るほどに冷たい。

 時折吹きすさぶ突風は、雨に濡れた赤土すら、容赦なく巻き上げる。

 開幕前から、ラファエル・ナダルをはじめ多くの選手が「ボールが遅く、重すぎる」と顔をしかめた今年のローランギャロスのコンディションは、一層その特性を深めた状態で、開幕の日を迎えていた。

 過去3度対戦した同世代のダニエル・エバンスは、錦織にしてみれば、プレースタイルを十分に知った選手である。だがクレーでは初対戦に加え、寒くボールが跳ねにくいこの日の気象条件が、エバンスが放つスライスを一層やっかいなものにしていた。
 
 立ち上がりで3本連続ショットをネットに掛け、磨きをかけてきたボレーもことごとくネットに阻まれたのは、それら複合的な要因に加え、錦織が「焦った」帰結だった。

 4本のウイナーに対し、重ねたエラーは12本。1-6のスコアで、錦織は第1セットを失った。

 ただ、わずか29分の第1セットが終わった時、錦織は「何が問題かはわかっていた」と明言する。

「彼のスライスに対し、焦ってウイナーを決めに行き過ぎた」というのが、その主因。そこで第2セット以降は、「我慢強くプレーすること」を自分に言い聞かせる。さらには試合が進むにつれ、徐々に相手のスライス、そして難解なコンディションにも適応していった。ストロークは深さを増し、錦織が打ち合いを支配する時間が増えていく。また、サーブ&ボレーなど相手の読みを外すプレーも織り交ぜはじめた。

 こうなると、焦りを覚えるのはエバンスの方だ。第1セットでは効果的だったスライスも返され、明らかに苛立ちを募らせる。三度までもダブルフォールトでブレークを献上したエバンスに対し、サービスの安定感を増した錦織が、第2セットはお返しとばかりに6-1で奪い返した。
 
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