「コンディションはものすごくタフだ。寒すぎる。誰にとっても、難しい大会になるだろう」

　大会開幕の２日前――。
　センターコートでの練習を終えて会見にのぞんだラファエル・ナダルは、開口一番、そう言った。表情は険しく、声にも緊張の棘が潜む。

「僕にとって、最もタフなローランギャロスになるだろう」
　12度のタイトルを誇る"赤土の王"が、ここから迎える２週間の戦いに不安をのぞかせていた。

　ナダルが今年の全仏オープンを「タフ」と言った最大の理由は、例年とはあまりに異なる、ボールの打感や軌道にあった。

　今季から大会公式ボールは、従来のバボラからウイルソンへと変わっている。加えて、開幕前日には10度前後までしか上がらなかった気温と降雨が、 "生き物"とまで呼ばれる赤土の状況を異質なものにしていた。結果、ナダルいわく「すごくすごく遅くて重い」状態になり、ボールは飛ばず跳ねてもくれない。
  　ナダル以外にも、同様の所感は多くの選手が抱いており、ドミニク・ティームは「この環境は、ラファよりもノバク（・ジョコビッチ）に向いているかもしれない」と、ナダルにとっては不吉な予感を口にした。

　このような環境の変化は、選手が求めるストリングを張るテンションにも、可視的に現れる。

　今回、ウイルソンチームの一員として初めて全仏でストリングを張る細谷理氏は、「この大会は、選手のテンション変更が多い」と証言した。もちろん全仏以外の大会でも、試合の時間帯などによって、選手がテンションを変えることは珍しくはない。特に、昼夜の気温差の激しいオーストラリアは、その傾向が強かった。

　ただそれらを経験してきた細谷氏ですら、今大会のリクエストは独特だと言う。何より驚いたのが、"あの"ナダルがテンションを変えたことだ。