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国内テニス

栄光と苦難を経験した内田海智と中川直樹。豪打と柔軟なテニスが激突【全日本テニス】

内田暁

2020.10.30

全日本の準々決勝で、中川(右)が内田から逆転勝利を挙げた。写真:山崎賢人(THE DIGEST写真部)

全日本の準々決勝で、中川(右)が内田から逆転勝利を挙げた。写真:山崎賢人(THE DIGEST写真部)

 コートを見下ろす2階席のベンチに、盛田正明・元日本テニス協会会長の姿があった。盛田氏が送る温かい視線の先では、現在26歳の内田海智と来月に24歳の誕生日を迎える中川直樹が熱戦を繰り広げる。中川は、盛田氏が立ち上げたテニスファンドの卒業生である。

 内田と中川は両者ともに、ジュニア時代から周囲の期待に応える結果を残し、将来を嘱望された存在だった。

 ジュニア・デビスカップで日本優勝の立役者となった内田は、その後もウインブルドンJr.、そして全米オープンJr.でもベスト4の好成績。自信とプライドを胸に、プロの世界に乗り込んだ。ただそこからの足取りは、決して軽やかとは言い難い。もともと器用なタイプではなく、プロの世界の多彩なテニスに、適応するのに時間を要した。

 それでも腐ることなくジリジリとプレーの幅を広げ、戦績も徐々に残していく。昨年夏にはキャリア最高位の237位に達し、グランドスラム予選の舞台も踏んだ。

「僕、プロになって以来、年間ランキングは毎年上がっているんです」。朴訥な口調に確かな矜持を込め、彼がそう言ったのは昨年のことだった。
 
 一方の中川も、ジュニア時代の戦績では内田にひけを取らない。15歳の時にはITFフューチャーズ1万ドルで優勝し、2014年の全米オープンJr.では、ダブルスで頂点へ。ちなみにこの時の全米オープンは、錦織が世界1位のノバク・ジョコビッチを破り決勝に躍進した大会でもある。大先輩が死闘を制する姿を間近で見て、試合前にはウォームアップの相手も務めた中川は、「いつか僕も、この舞台に立ちたい」との決意を、柔らかな表情に湛えていた。

 だが順風満帆に見えたキャリアは、プロ転向1年目からケガの試練に見舞われる。18歳で右肘を痛め、1年間のツアー離脱を余儀なくされた。柔らかなフォームから放つ多彩なフォアハンドが武器の中川にとり、右腕のケガはテニスの根幹を揺るがす。感覚を取り戻すには時間を要し、もがきのなかで10代は過ぎていった。

 ようやくテニスの感覚を取り戻し、結果も出始めたのは復帰から1年が過ぎた頃。ところが18年の5月、今度は右手首の腱脱臼という大ケガに見舞われる。この時はメスを入れ、ギプスで固定したまま腕を動かすこともできない日が続いた。
 

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