国内テニス

テニス選手、穂積絵莉の心のアップダウンと成長。「1日24時間では足りない」と初めて思った充実した日々

赤松恵珠子(スマッシュ編集部)

2021.01.02

今年の全日本選手権2回戦で日比野菜緒と対戦し、「すごく良い試合ができた」と手応えを得た穂積。写真:金子拓弥(THE DIGEST写真部)

 コロナ禍のテニス界では、上位選手だとグランドスラムやツアーの大きな大会に出場も可能だが、ランキングが373位にまで下がっている穂積絵莉にとっては、出られる大会がほとんどなかった。そこで、普段は時間をかけられない、プレーの細かい部分まで見直すことに決めた。

 例えば打点。本当に今打っている場所がベストなのかを検証した。すると打点が前過ぎて身体が開いていることや、フォアでは肩が上がりやすいことが判明。スタンスも他の選手を見ていると意外に狭いので、実際に狭くして打ってみると、「こっちの方が力が伝わりやすい」と実感もした。これらの改善点に取り組んでいくことで、ツアー中断中にプレーは着実に向上していった。

 そして、9月の高崎オープンを、再開後の初めての大会に決めた。練習の成果を出す時だと、異様に気合いが入っていたのは間違いない。「初戦の2日前ぐらいから緊張していて、人生で初めて試合前日の晩御飯、味がわかりませんでした」。自分にかける期待が大きかったぶん、緊張を乗り越えられずに試合に挑むことになってしまった。

「1回戦から全然良いパフォーマンスが出せなくて、何とか気持ちだけで勝っている感じ」となり、準決勝で敗退。「やってきたことが、ほぼ出せずに終わりました…」
 
 なぜ、やってきたことが出せなかったのか。全日本選手権を1カ月後に控えに、どうしていくのか。チームで話し合いの場がもたれた。練習の取り組み方、自分の気持ちの持ち方、私生活でどういう意識が必要か……。

 穂積は自分を見つめ直した。対応力や柔軟性が足りないと考え、日常でも「予定がズレた時にパッと切り替える」ことを意識するようにした。「受け入れる力が元々弱い」と思い、自分と真逆の意見でも、まずは受け入れて考えてみようと、普段の生活から自分を変えるように心掛けた。

 加えて、話していく中で気づいたのは、コーチと本人の「スピード感のギャップ」。自分は3カ月でできればいいと思っていたことを、コーチは1カ月でできたらいいと考えていたのだ。そこで「ゆっくりしている時間はない」と自分に言い聞かせて行動した。

 今まで3カ月でしていたことを、1カ月でするのだから、生活は大きく変わった。「人生で初めて1日24時間では足りないと思いました。やること多すぎて。今までのように動画を見たり漫画を読む時間がなくて、『えーもう寝る時間』と思ったり(笑)」

 それをやり遂げた穂積は充実した表情で言う、「すごく自分が変わったと思えた1カ月だったんです」