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マッチポイント2本!絶体絶命で発揮した大坂なおみ土壇場のメンタリティ【全豪オープン/現地発レポート】〈SMASH〉

内田暁

2021.02.15

試合序盤はムグルサの攻略法を見い出せず苦しんでいた大坂なおみ。(C)Getty Images

 事前に得ていた情報やデータと、実際に対峙し覚える身体的感覚には、時に乖離があるものだろう。その相手が2度のグランドスラムタイトルを誇るトッププレーヤーで、しかも初対戦となれば、なおのことだ。

「試合前に頭に入れたインフォメーションが、なかなか自分の中で噛み合わない」と、大坂は試合を通じて感じていたという。

 昨年の全豪オープンテニス準優勝者のガルビネ・ムグルサは、今大会のここまでの3試合で、相手に最大で4ゲームしか与えぬ圧勝を連ねてきた。さらに全豪の前哨戦に目を向けても、決勝までの4試合で、相手に5ゲーム以上与えぬ驚異の白星街道だ。

 ムグルサがこのオフシーズンにいかに厳しいトレーニングを積んできたかは、シャープさを増した体躯と鋭敏な動きが物語る。182センチの長身ながら軽快なフットワークを見せるムグルサの動きに、ネットを挟み対峙する大坂は、「相手のコートが、ものすごく小さく見えた」と言ったほどだ。

 戦前のシミュレーションと実態が重ならぬ焦燥は、大坂に「考えすぎる」というネガティブな状況を引き起こす。試合の立ち上がりは2ゲーム連取の理想的なスタートを切るが、徐々に相手のペースに飲まれ、第1セットを逆転で失った。
 
 第2セットは数少ないチャンスをものにし手にするが、それでも、流れや攻略法をつかんだとは言い難い。

 現に第3セットに入ると、より早いタイミングでボールを捉え、深く打ち込むムグルサの強打に、守勢に回る場面が増える。コートサイドに構える大坂陣営の面々は、「ここからここから!」「もっと闘志を出していけ!」と発破を掛けるが、大坂の表情や動きから、悩みの陰が消えることはない。第3ゲームをブレークされると、ゲームカウント3-5の場面では、自身のサービスゲームながら相手の2連続ブレークポイント……つまりは、マッチポイントに直面した。

 だが、後のない絶体絶命の窮状に追い込まれたことで、彼女の神経が研ぎ澄まされる。「まずはサービスに集中しよう、良いサービスを打とう」と自分に言い聞かせ、センターに叩き込む192キロでエース。

 次のポイントではラリー中に、「単に打ち返すだけではなく、しかしバカ打ちはしない」ことを心掛け、相手のミスを誘った。この打ち合いはムグルサが、後に「もっと違うようにプレーすべきだった」と悔いを滲ませた局面でもある。その小さな後悔が棘となって、リードする者の心に刺さっていただろうか。