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“全豪方式”のコロナ対策はスタンダードには成り得ない。隔離を経験した選手たちの本音【現地発レポート】〈SMASH〉

内田暁

2021.03.01

開幕前には大会側へ待遇改善案を提案したジョコビッチ(左)。今年、全豪OPが行なったコロナ対策に選手の反応は?(C)Getty Images

「どちらか選ぶのではなく、早くノーマルな状態に戻れないかな?」

 全豪オープンで実施された"2週間隔離とその後の自由"方式が良いか、あるいは、他のグランドスラムで行なわれた、ホテルと会場内のみに行動範囲が規制された"バブル"が良いか――?今大会、複数の選手にこの質問を投げた時、多くのトップ選手から苦笑と共に返ってきたのが、先述の言葉である。

「バブルにしろ隔離にしろ、今回が、そういったことが行なわれる最後のグランドスラムであることを願うよ」と言ったのは、昨年の全豪準優勝者のドミニク・ティーム。バブル下の全米オープンで、悲願のグランドスラム初タイトルを手にしたティームではあるが、「隔離後に街やレストランに出られるから、こちらの方が良いかな」と、"全豪方式"に控えめに一票を投じた。

 また、シモナ・ハレップも「もうこれ以上、こんな心配しなくていい状態に戻りたい」と小さくこぼす。それでも「悪いことばかりではないと思うのは、時差に慣れる時間が十分にあったこと。ヨーロッパからオーストラリアに来ると、時差ボケに苦しめられるから」と、第2シードは明るい側面にも目を向けた。

 今回の"隔離"が、他のグランドスラムやツアーで採用されてきた"バブル"と決定的に異なるのは、練習時間の内訳や内容までが、細かく規定されていた点だ。「選手は特例的に、隔離中も5時間の練習が許される」とされてはいたが、その5時間は、ホテルと会場の往復移動で30分、コートを使った練習が2時間、ジム等でのトレーニングが1時間半、食事等で1時間と厳格に定められていたという。
 
 何より大きいのは、2週間決められた相手としか練習出来なかったこと。そして選手一人あたり、一人しかスタッフを練習会場には連れていけなかったことだった。自身の裁量で、練習やトレーニング、そしてケアの時間を決められないというのは、特にトップ選手にとっては、かなりのストレスだっただろう。

 ただその一方で、比較的ランキング下位の選手やダブルス選手たちからは、「むしろいつもより、良い練習環境」との声が聞こえてきたのも、事実である。ドバイでの予選を突破しメルボルン入りした日比万葉は、同じく予選上がりのマヤル・シェリフと過ごした練習の日々を、「とても良かったです」と振り返った。

 予選突破者やランキング下位の選手にとって、練習コート確保は、常に心に引っかかる事案だ。練習相手を探し、コート予約開始と同時に受付に行き、それでも1時間1面を4人でシェアすることはざら。それが今大会では2週間、心配せずとも二人でコート1面を、2時間じっくり使って練習に打ち込める。それは日比にとって「充実した時間」であった。