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国内テニス

「グランドスラム優勝と世界一」の夢はずっと変わらない。19歳の新鋭プロ、佐藤久真莉が持つ可能性<SMASH>

内田暁

2021.05.18

最近の佐藤久真莉はプロとしての自覚が生まれ、戦術面でもネットを絡めて攻撃するなど広がりを見せている。それが全日本ベスト4、初の日本代表入りにもつながっていると言えよう。写真:THE DIGEST写真部

最近の佐藤久真莉はプロとしての自覚が生まれ、戦術面でもネットを絡めて攻撃するなど広がりを見せている。それが全日本ベスト4、初の日本代表入りにもつながっていると言えよう。写真:THE DIGEST写真部

 佐藤久真莉(さとうひまり)――。
 
 耳に優しいその名前は、かなり以前から、テニス関係者の間で頻繁にささやかれていた。

「天性の手の感覚の良さ」「大舞台にも物おじしない」「あんなにボールをクリーンヒットし続けられる小学生は見たことがない」

 語られる内容は、おおむね、そのようなもの。期待の天才少女として、彼女は小学生の頃から、大人たちの視線を集めてきた。

 彼女の姿がテニスファンの目にも広く触れたのは、2013年、東レパンパシフィックオープンの余興として、有明コロシアムでマルチナ・ヒンギスとボールを打ち合った時だろう。

 当時、佐藤は11歳。途切れぬリズミカルな打球音に合わせ、場内のアナウンスでは、彼女が10歳にしてジュニア大会12歳以下の上位常連であることや、欧州のジュニア大会でも戦果を挙げていることが紹介される。

「並外れた才能」
 そんな惹句が、繰り返しコロシアム内に流れた。

「あの頃は、ヒンギスがどれくらいすごいかも、緊張が何かもわかってなかったです」
 あれから、8年。19歳になった佐藤はそう言い、目を細めて笑みをこぼした。

 テニスが好きで、ボールを打つのが楽しくて毎日テニスコートに向かい、「世界1位と、グランドスラム優勝」の夢を無邪気に口にできた少女の頃。だがそれから時が経つにつれ、彼女は、自分が「注目されている存在」であることを知り始めた。
 
「中学生くらいの時、周囲の期待を感じるようになって……。応援してくれる人たちのためにも、勝たないといけないかなって思っていました」

 それまで無縁だった、緊張や重圧を感じ始めた中学生時代。それら周囲の視線に加え、もう一つ彼女の心を圧していたのが、海外の同世代選手たちの躍進だ。

 佐藤と同期の若手には、現在世界80位のマルタ・コスチュクや、ウィットニー・オスイグウェらがいる。2人とも14~15歳でグランドスラムジュニアを制し、コスチュクは15歳にして全豪オープン本戦で3回戦入りした早熟の“次代の旗手”。それら、小学生時に肩を並べたかつてのライバルの背が、彼女の心をはやらせた。

 ところが、視線が大きく上方に向けられるに伴い、足元の勝利がおぼつかなくなる。

「試合中も、ただボールを打っているだけで、戦術など考えられていなかった。楽しいテニスではなかったと思います。大会に出てもすぐ負けるので、勝ってまた試合をして……という流れがなくて」

 それまで潤滑に回転していた歯車は、ひとたび噛み合わせが狂うと、ひずみを正すのが難しくなる。ただでさえ反抗期的な年代で、自分の心を制御するのが難しい時期。

「心技体の何が、勝てなかった時期の一番の理由だったのか?」そう問うと、彼女は「心理的な面が大きかった思います」と即答した。
 
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