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海外テニス

“本能”でハチャノフに勝ち切った錦織圭。3回戦の相手はランク以上の力を秘める苦労人の29歳<SMASH>

内田暁

2021.06.04

2試合続けてのフルセットマッチを制した錦織。次の相手、ラークソネンはアレルギー体質が災いしここまで遠回りしたが、侮れない実力を持つ選手だ。(C)Getty Images

2試合続けてのフルセットマッチを制した錦織。次の相手、ラークソネンはアレルギー体質が災いしここまで遠回りしたが、侮れない実力を持つ選手だ。(C)Getty Images

「呆然として、魂が抜けたようだった」

 第3セットを落とした時の心境を、錦織はそう振り返る。
 
 全仏オープンテニス2回戦。第1セットを失い、第2セットは良い流れで取り返すも、主導権を奪い返される形で落とした第3セット。この時点で試合に勝つには、5セットを戦い抜くしか選択肢は残されていない。

 だが、3日前の初戦でも4時間のフルセットを戦った疲労は、まだ抜けてはいなかった。しかも相手は25歳を迎えたばかりの、世界25位のカレン・ハチャノフ。簡単に崩れてくれる相手ではない。疲れによるプレーの低下も、期待できない。

 やや絶望的な窮状で、「何も考えられない」まま本能だけで戦った、第4セット。それでもこのセットを競り勝ち、そして「現役選手最高」である第5セットでの勝率記録を、また伸ばすことに成功した。

「魂抜けた状態で戦って4セット目を取って、身体は動きたくないけれど動いちゃうという。そこはすごいなと思いました」

 試合後の錦織は、まるで他人事のように、朴訥な口調で自身が成したことを語った。

「何も考えられなかった」という第4セットだが、スタッツなどの数字を見れば、そこにはプレーの足跡が浮かび上がる。

 第3セットからの一番の変化は、短いラリーで取ったポイント……それも、いわゆる“3球目で決める”パターンが多かったことだ。サーブで崩し、返球を迷わずオープンコートに叩き込む。あるいはリターンを打つと同時に前に出て、ネットプレーで決める。相手の8本を上回る15のウイナー、あるいは、5つのセットで最多の8本のネットポイントを奪った数字が、彼の攻撃的な姿勢を映していた。
 
 疲労困憊ながら勝ち進んだ3回戦で、錦織を待ち受けるのは、第11シードのバウティスタアグートを破った、ヘンリ・ラークソネン。予選を勝ち上がり、今回が初のグランドスラム3回戦進出という遅咲きの29歳だ。

 国籍はスイスながら、フィンランドで育ったラークソネンは、もともとクレーを得手とする。2009年にはこの大会のジュニア部門で、ベスト4にも勝ち上がった。

 プロ転向後は、すぐに結果が出ないながらも4年前にトップ100入り。だがその頃から、謎の体調不良に悩まされてきたという。理由は、サーモンのアレルギー。それがわかるまでに時間を要し、この舞台に至るまで遠回りした。

「正直、今日勝てるとは思っていなかった」と2回戦勝利後に語るラークソネンは、「まずはこの勝利を楽しみ、中1日でしっかり練習し、次の試合は今日の試合の続きからという感じでプレーしたい」と言った。

 錦織にしてみれば、初戦に続き、予選上がり選手との対戦となる。

 心身ともに疲弊した状態で、いかに、ランキング以上の実力を持つ挑戦者の全力プレーを跳ね返すか? 異なるテーマを突き付けられながらの、過酷な赤土ロードは続く。

現地取材・文●内田暁

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