「呆然として、魂が抜けたようだった」
第3セットを落とした時の心境を、錦織はそう振り返る。
全仏オープンテニス2回戦。第1セットを失い、第2セットは良い流れで取り返すも、主導権を奪い返される形で落とした第3セット。この時点で試合に勝つには、5セットを戦い抜くしか選択肢は残されていない。
だが、3日前の初戦でも4時間のフルセットを戦った疲労は、まだ抜けてはいなかった。しかも相手は25歳を迎えたばかりの、世界25位のカレン・ハチャノフ。簡単に崩れてくれる相手ではない。疲れによるプレーの低下も、期待できない。
やや絶望的な窮状で、「何も考えられない」まま本能だけで戦った、第4セット。それでもこのセットを競り勝ち、そして「現役選手最高」である第5セットでの勝率記録を、また伸ばすことに成功した。
「魂抜けた状態で戦って4セット目を取って、身体は動きたくないけれど動いちゃうという。そこはすごいなと思いました」
試合後の錦織は、まるで他人事のように、朴訥な口調で自身が成したことを語った。
「何も考えられなかった」という第4セットだが、スタッツなどの数字を見れば、そこにはプレーの足跡が浮かび上がる。
第3セットからの一番の変化は、短いラリーで取ったポイント……それも、いわゆる“3球目で決める”パターンが多かったことだ。サーブで崩し、返球を迷わずオープンコートに叩き込む。あるいはリターンを打つと同時に前に出て、ネットプレーで決める。相手の8本を上回る15のウイナー、あるいは、5つのセットで最多の8本のネットポイントを奪った数字が、彼の攻撃的な姿勢を映していた。
疲労困憊ながら勝ち進んだ3回戦で、錦織を待ち受けるのは、第11シードのバウティスタアグートを破った、ヘンリ・ラークソネン。予選を勝ち上がり、今回が初のグランドスラム3回戦進出という遅咲きの29歳だ。
国籍はスイスながら、フィンランドで育ったラークソネンは、もともとクレーを得手とする。2009年にはこの大会のジュニア部門で、ベスト4にも勝ち上がった。
プロ転向後は、すぐに結果が出ないながらも4年前にトップ100入り。だがその頃から、謎の体調不良に悩まされてきたという。理由は、サーモンのアレルギー。それがわかるまでに時間を要し、この舞台に至るまで遠回りした。
「正直、今日勝てるとは思っていなかった」と2回戦勝利後に語るラークソネンは、「まずはこの勝利を楽しみ、中1日でしっかり練習し、次の試合は今日の試合の続きからという感じでプレーしたい」と言った。
錦織にしてみれば、初戦に続き、予選上がり選手との対戦となる。
心身ともに疲弊した状態で、いかに、ランキング以上の実力を持つ挑戦者の全力プレーを跳ね返すか? 異なるテーマを突き付けられながらの、過酷な赤土ロードは続く。
現地取材・文●内田暁
【PHOTO】錦織圭、2021年シーズンの戦いぶりを厳選写真で特集!
第3セットを落とした時の心境を、錦織はそう振り返る。
全仏オープンテニス2回戦。第1セットを失い、第2セットは良い流れで取り返すも、主導権を奪い返される形で落とした第3セット。この時点で試合に勝つには、5セットを戦い抜くしか選択肢は残されていない。
だが、3日前の初戦でも4時間のフルセットを戦った疲労は、まだ抜けてはいなかった。しかも相手は25歳を迎えたばかりの、世界25位のカレン・ハチャノフ。簡単に崩れてくれる相手ではない。疲れによるプレーの低下も、期待できない。
やや絶望的な窮状で、「何も考えられない」まま本能だけで戦った、第4セット。それでもこのセットを競り勝ち、そして「現役選手最高」である第5セットでの勝率記録を、また伸ばすことに成功した。
「魂抜けた状態で戦って4セット目を取って、身体は動きたくないけれど動いちゃうという。そこはすごいなと思いました」
試合後の錦織は、まるで他人事のように、朴訥な口調で自身が成したことを語った。
「何も考えられなかった」という第4セットだが、スタッツなどの数字を見れば、そこにはプレーの足跡が浮かび上がる。
第3セットからの一番の変化は、短いラリーで取ったポイント……それも、いわゆる“3球目で決める”パターンが多かったことだ。サーブで崩し、返球を迷わずオープンコートに叩き込む。あるいはリターンを打つと同時に前に出て、ネットプレーで決める。相手の8本を上回る15のウイナー、あるいは、5つのセットで最多の8本のネットポイントを奪った数字が、彼の攻撃的な姿勢を映していた。
疲労困憊ながら勝ち進んだ3回戦で、錦織を待ち受けるのは、第11シードのバウティスタアグートを破った、ヘンリ・ラークソネン。予選を勝ち上がり、今回が初のグランドスラム3回戦進出という遅咲きの29歳だ。
国籍はスイスながら、フィンランドで育ったラークソネンは、もともとクレーを得手とする。2009年にはこの大会のジュニア部門で、ベスト4にも勝ち上がった。
プロ転向後は、すぐに結果が出ないながらも4年前にトップ100入り。だがその頃から、謎の体調不良に悩まされてきたという。理由は、サーモンのアレルギー。それがわかるまでに時間を要し、この舞台に至るまで遠回りした。
「正直、今日勝てるとは思っていなかった」と2回戦勝利後に語るラークソネンは、「まずはこの勝利を楽しみ、中1日でしっかり練習し、次の試合は今日の試合の続きからという感じでプレーしたい」と言った。
錦織にしてみれば、初戦に続き、予選上がり選手との対戦となる。
心身ともに疲弊した状態で、いかに、ランキング以上の実力を持つ挑戦者の全力プレーを跳ね返すか? 異なるテーマを突き付けられながらの、過酷な赤土ロードは続く。
現地取材・文●内田暁
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