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海外テニス

「私に最高のギフトをくれた」癌の闘病を乗り越えたスアレスナバーロがウインブルドンでのラストマッチ<SMASH>

内田暁

2021.06.30

癌を克服してコートに戻ってきたスアレスナバーロは、ウインブルドンでファンに別れを告げた。(C)Getty Images

癌を克服してコートに戻ってきたスアレスナバーロは、ウインブルドンでファンに別れを告げた。(C)Getty Images

 最後のポイントが決まると同時に、一斉に立ち上がったセンターコートの観客は、敬愛のこもった拍手と歓声を、戦い終えた選手へと送る。

 抱擁とともに、「あなたと一緒に、このコートに立てて光栄です」と伝えた勝者は、降り注ぐ歓声の全てを捧げるように、対戦相手に手を向けた。

 ウインブルドンの、大会2日目。センターコートの第1試合に組まれたのは、女子テニス世界1位のアシュリー・バーティー。ただこの時ばかりは、”テニスの聖地”と呼ばれる空間は、対戦相手のためにあった。

 カルラ・スアレスナバーロ。
 美しい片手打ちバックハンドでファンから愛された元世界の6位は、2019年末の時点で、翌シーズンを最後に現役生活に幕引きすることを決意していた。だが、その“ラストシーズン”はコロナ禍により5か月間中断される。さらには、ツアー再開直後の昨年9月、彼女は、ホジキンリンパ腫と診断されたという衝撃の告白をした。
 
 それでも、162センチと小柄ながら不屈のファイターとして知られた彼女は、もう一度コートに戻るべく、癌との戦いに挑む。そして約半年の化学治療を経て、今年5月の全仏オープンで復帰。すべては、最後の別れをファンに告げるためだった。

 そのローランギャロスでは、初戦でスローン・スティーブンス相手に、ファーストセットを奪い、第2セットもリードする力強いパフォーマンスで、見る者を驚かせる。ただ、当時の「21時以降は外出が認められない」というフランス政府の規制のため、試合途中で観客は立ち去ることを強いられた。そのため、スアレスナバーロの最後のローランギャロスは、無観客の中で終えることに。拍手も声援もない、あまりに寂しい別れだった。

 それから、3週間——。
 緑の芝の上で、世界1位とネットを挟んだスアレスナバーロは、「すごく緊張していた。この大会の前に戦った唯一の試合が、ローランギャロスだったから」という。

 ただでさえクレーから芝への適応は、テニス界で最も困難なタスクと言われる。しかも彼女の場合は実戦そのものが、昨年の2月以降で2試合目。緊張、試合勘の欠如、そして、もともと得意ではない芝への適応。それらに時間を奪われ、ファーストセットは、1-6で失った。
 
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