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海外テニス

身長差38センチのイズナーに対し、西岡良仁が実行した「このサーフェスで彼に勝つ唯一の方法」<SMASH>

内田暁

2021.07.01

難敵イズナーをフルセットで下し、ガッツポーズの西岡。グランドスラムで唯一勝っていなかったウインブルドンで初白星を挙げた。(C)Getty Images

難敵イズナーをフルセットで下し、ガッツポーズの西岡。グランドスラムで唯一勝っていなかったウインブルドンで初白星を挙げた。(C)Getty Images

 18番コートを囲む瀟洒なレンガの壁には、楕円状の金属プレートが張られている。

「The Longest Match(最長試合)」の文字と共に、刻まれているのは6-4、3-6、6-7(7-9)、7-6(7-3)、70-68のスコアと、11時間5分の試合時間。そして対戦した2人の選手の名前である。

 勝者として記されているのは、当時世界19位だったジョン・イズナー。

 その伝説的な一戦から、11年後――。

 36歳になった今も衰えぬ超高速サーブをひっさげて、“ビッグ・ジョン”が18番コートに足を踏み入れる。

 208センチのイズナーと対峙するのは、170センチの西岡良仁。最長試合を戦った時のイズナーと同年齢の彼は、グランドスラムで唯一欠けているウインブルドンでの勝利を求め、18番コートに立っていた。
 
 偉業を称えるプレートに、38センチの身長差。外野の目にはその光景は、イズナーの圧倒的な優位性として映っただろう。
 
 だがこれまで、自身より遥かに大柄な選手との対戦を重ねてきた西岡に、そこまでの気負いや畏怖はない。むしろ、相手の手の内はわかっているだけに、心に迷いはなかったという。

「今日に関しては、わかりやすかったです。イズナー選手のサーブは、取れないのは取れない。自分がうんぬんではなく、相手次第」

 そのうえで勝利への方策も、シンプルに絞り込まれていた。
「先にブレークされると、相手はプレッシャーなくサーブできるので、ブレークは難しくなる。自分のサーブをキープしてプレッシャーをかけるのが、このサーフェスで彼に勝つ唯一の方法」

 その、思い描いていた「唯一の方法」を、彼は冷静に遂行していく。サーブの威力やスピードで、エースを取れるわけではない。それでも芝とサウスポーの特性を生かし、ワイドに切れていくスライスサーブや、相手の正面を突くキックサーブなどを織り交ぜて、巧みにポイントを重ねていった。

 さらに、過去の対戦や分析からわかっていたのが、イズナーは「ストロークで引くところがある」こと。ビッグサーバーには、ギャンブル的な強打やネットプレーを好む選手も多いが、イズナーは手堅いプレー選択をしがちだ。「ストローク戦になれば、自分に分がある」との手ごたえと勝利への信用が、西岡の集中力を支えていた。
 
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