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東京五輪とは違う?「ウインブルドン」が実践する“慎重さと大胆さ”が混在する観客コントロールとは…<SMASH>

内田暁

2021.07.03

東京五輪へはフェデラー(写真)やジョコビッチらトップ選手の出場も決まっているが、果たしてどのような対策が取られるのか。(C)Getty Images

「信じがたい雰囲気だ。ここにいる一人ひとりの声が僕に力をくれたし、それこそが、今の僕が最も必要としていたものだった」

 大会3日目の、ウインブルドンセンターコート。

 屋根が閉じてライトに照らされるコート上で、4時間近くのフルセットの死闘を制したアンディ・マリーは、マイクを手に震える声でファンに謝意を述べた。

 15,000人のキャパシティを誇る客席は、その半分しか埋まっていないはずである。だが、天井を震わせる大声援と熱狂は、超満員の趣きだ。

 観客に、マスク着用のノルマはない。ソーシャルディスタンスも必須ではない。ファンは声の限り母国の英雄を応援し、勝利の歓喜を共有する。

 それはまさに、ウインブルドンの、そしてスポーツ観戦の熱が戻ってきた瞬間だった。

 昨年は、新型コロナウイルス感染拡大のため中止となった『ザ・チャンピオンシップス』の今年の開催が決まったのは、昨年末のことだった。

 ただ、いかなる形で開催されるかは、英国国内の状況や政府の方針を見て、ぎりぎりまで協議されていたという。
 
 最終的な方針が発表されたのは、開幕日を12日後に控えた6月16日。

「政府や保健所、そして地域コミュニティとの話し合いの結果、ザ・チャンピオンシップス2021は、英国政府イベント・リサーチ・プログラムの、第3フェーズのパイロットイベントに承認されました」

 そのような発表が、大会運営者のオールイングランド・ローンテニス・アンド・クローケー・クラブ(AELTC)から出された。つまりは他に先行し、調査目的も兼ねて開催されるイベントという位置づけ。それだけに観客に関する規制にも、慎重さと大胆さが混在している。

 まず先述したように、開幕の6月28日時点で、センターコートおよびナンバー1コートの入場者はキャパシティの50%に定められている。それ以外のコートは、75%が上限。そして大会が進むにつれて上限を拡張し、準決勝と決勝戦では満席にするという野心的な試みだ。

 また観客は、チケット以外に2度のワクチン接種証明か、政府公認の迅速抗原検査による陰性証明が求められる。ちなみに抗原検査キットは無料で、町中の一般的な薬局等で入手可能。自分で綿棒を用いて咽頭と鼻咽頭をぬぐい、結果が出るまでに要する時間は15分ほど。その結果をウェブサイトで報告すると、すぐにテキストメッセージやEメールで証明が得られるというシステムだ。
 
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以前のような華やぎが戻ってきたウインブルドンだが…