海外テニス

【プロの観戦眼9】オールラウンドな強さのカギ、ベレッティーニのバックハンドスライスを見よ~佐藤哲哉<SMASH>

渡辺隆康(スマッシュ編集部)

2021.08.19

肩を入れて上体をひねり、ボールを引きつけてから、ひねり戻しによってスピーディーにスイングしている。それが可能なのは常に軸が真っすぐだからだ。左下は佐藤哲哉プロ。写真:真野博正、THE DIGEST写真部

 このシリーズでは、多くのテニスの試合を見ているプロや解説者に、「この選手のこのショット」がすごいという着眼点を教えてもらう。試合観戦をより楽しむためのヒントにしてほしい。

 第9回は、元デビスカップ日本代表で、ATPカップなどのテニス中継の解説者も務める佐藤哲哉プロに話を聞いた。佐藤プロが推すのは、ベレッティーニのバックハンドスライスだ。

 ベレッティーニというと頑強なストローカーで、フォア、バックとも厚い当たりのスピンドライブを武器にしているイメージがあるが、「バックのスライスが両手打ちの選手っぽくなくて、とてもナチュラルなんです」と佐藤プロは語る。

「ふだん両手バックの選手が片手でスライスを打つと、前傾しすぎてバランスが崩れる傾向があります。でもベレッティーニは軸がほぼ真っすぐに保たれている。だからテイクバックで肩を深く入れて上体をひねり、それを戻す作業がすごく奇麗にできるんです」

 そのためベレッティーニは「ぎりぎりまでボールを引きつけ、スピーディーにスイングできる」そうで、「鋭く滑るスライスになる」とのこと。「彼はクレーやハードだけでなく、このスライスがあるから芝生でも強いんです」と佐藤プロは分析する。
 
 ちなみにこの話を聞いたのは今年のウインブルドンの序盤戦の頃で、まさかベレッティーニが決勝に行くとは、ほとんどの人が思っていなかっただろう。確かに前哨戦では優勝していたが、本番での大ブレークは、佐藤プロの見立てが当たった形と言える。

「構えからフォロースルーまで本当にスムーズで、身体が大きいのにとても器用です。最近の若手ストローカーは芝で苦労していますが、ベレッティーニは違う。強打に加え、要所でスライスを交ぜられるから、オールラウンドに全てのサーフェスで勝てるはずです」

 ウインブルドン後、ケガで戦列を離れたが、シンシナティで復帰を果たしたベレッティーニ。シーズン後半のハードコートシリーズでも、きっと活躍してくれるだろう。その時はハードヒットばかりに目を奪われず、ぜひスライスのクオリティにも注目してほしい。

◆Matteo Berrettini/マテオ・ベレッティーニ(イタリア)
1996年4月12日、イタリア・ローマ生まれ。196cm、95kg、右利き、両手BH。2015年にプロ転向。これまでにツアー5勝を挙げ、グランドスラムでは19年全米4強、21年全仏8強、ウインブルドン準優勝と、サーフェスを問わない強さを見せている。

取材・文●渡辺隆康(スマッシュ編集部)

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