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「力で勝てないので」錦織圭のアドバイスを素直に受け止めた望月慎太郎。11歳で渡米し日本人初のウインブルドンJr優勝へ【山中夏雄コーチ】<SMASH>

山中夏雄

2021.12.22

左/12歳の望月慎太郎(左)、錦織圭(中央)と吉村大生(右)、右/IMGアカデミーでトレーニングをしている望月(中央)。写真提供:山中夏雄

 錦織圭のアメリカ留学をサポートした盛田正明テニスファンド(MMTF)のコーチとして、アメリカのIMGアカデミーに常駐し、日本のジュニアたちの成長を支えている山中夏雄氏。このコラムでは日本のトッププロたちが、いかにして成長してきたのか、日米テニス界の違いなどを教えてもらう。

 今回は今年プロに転向した望月慎太郎について。どうして16歳でウインブルドンジュニアに優勝することができたのか、その要因を聞いた。

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 望月慎太郎がIMGアカデミーに初めて来たのは小学5年生の冬でした。日本の全国大会で優勝したことはなく、渡米してきた時にあまり構えていなかったという印象です。

 MMTFはそれまで小学6年生以上から選出してIMGアカデミーに送っていましたので、5年生(11歳)がテストに来たのは初めてでした。盛田氏はなにごとも「やってみよう」という精神で、結局それが奏功したと思います。慎太郎はテストに合格し、12歳からフルタイムの留学が開始しました。

 慎太郎はスポンジのように様々なことを吸収していきました。日本では通用したものが、アメリカでは通じないことも多々あります。今までは決まっていたボールが返ってきますし、力強いボールを常に受ける状態です。当然海外の選手は体格も、スピンがかかったショットの威力も違います。そういう環境に12歳から身を置くことで、世界基準の常識が培われていったと思います。

 慎太郎がIMGアカデミーに来てすぐに、錦織圭とボールを打てる機会を作りました。圭がその後に慎太郎について言った言葉が「ミスしないですね」でした。緊張してミスが多くなっても仕方のない状況で、ミスしないパフォーマンスを出せていたわけです。

 その後に圭がしていたアドバイスは「身体が小さいうちに、こういう経験をしておこう。力では勝てないので、粘ったり、走ったり、深いボールを打ったりしておくといいよ」でした。
 
 慎太郎は、このアドバイスを純粋に聞き入れて、試していたように思います。それが今の彼のプレースタイルにも反映されています。この「素直さ」は成長していく上で重要な要素だったと感じます。

 この圭のアドバイスは多くの日本人ジュニアやコーチにも参考になるでしょう。慎太郎も最初は負けることが多かったのですが、その結果は受け入れながら、自分が目指すプレースタイルを継続して取り組んでいました。これも彼の素直さだったと思います。

 慎太郎はテニス留学をしたことで、世界基準を身に付けることができました。若いうちから、海外の大会に出場するなど、海外経験をしておいた方がいいのは間違いありません。それができない場合、指導者の技量が重要になってきます。

 日本の多くのコーチは選手と真摯に向き合い、勤勉さという点では世界トップクラスです。だからこそ、教え子がプロとして世界を目指すのであれば、海外経験をした人の話を聞いて学ぶなど、世界のテニスを把握できる機会を作ってほしいと思います。

文●山中夏雄(盛田正明テニスファンド・IMGアカデミー常駐コーチ)

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