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海外テニス

激闘の末に王者ジョコビッチを破ったナダル!「まだ準々決勝、何も勝ち取っていない」と次なる戦いへ意欲<SMASH>

内田暁

2022.06.02

4時間に及ぶ激闘の末にジョコビッチを破ったナダルだが、“クレーキング”の目指す場所はその先にある。(C)Getty Images。

4時間に及ぶ激闘の末にジョコビッチを破ったナダルだが、“クレーキング”の目指す場所はその先にある。(C)Getty Images。

 バックハンドで叩き込んだ黄色いボールは、赤土をえぐり、ファンの視線を絡めとりながら、ジョコビッチのラケットに触れることなく、コートを縦に駆け抜けた。

 爆ぜる大歓声を浴びる彼は、瞬時に身体を翻すと、ファミリーボックスに向け両手を突き上げる。
 
「メルシー、メルシー、メルシー、メルシー」
 
 オンコートインタビューでは目元をぬぐいながら、ファンに向けてフランス語で、「ありがとう」の言葉をくり返した。

 時計の針は、とうに日をまたぎ1時15分を指している。
 
 ラファエル・ナダル対ノバク・ジョコビッチ。
 
 通算59度目の対戦は、大観衆を飲み込んだ全仏オープン準々決勝を舞台とし、6-2、4-6、6-2、7-6(4)のナダル勝利で幕を下ろした。

 両雄が、センターコート『フィリップシャトリエ』に足を踏み入れたのは、この時より4時間12分遡る。今年から導入された“ナイトセッション”に組まれた今大会最高のカードは、20時45分が始まりの時間と定められていた。

 ただ日の長い初夏のパリでは、夜の9時でも空は微かに青い。

 クレーコートの特性がより生きる日中のコンディションを好むナダルは、ほのかな日の光を浴び、立ち上がりから、攻めた。目を引くのは、フォアハンドのダウンザラインへの強打。このウイニングショットから逆算するように、彼は理知的にラリーを組み立てた。
 
 ジョコビッチはその武器を封じるべく、バックサイドにボールを集め、ショートクロスも打っていく。

 対するナダルは、バックを広角に打ち分け、高く弾むフォアのクロスでジョコビッチの体勢を崩すと、迷わず伝家の宝刀を抜いた。

 二日前に4時間半の激闘を戦い抜き、足にも不安を抱えていたのが嘘のように、勇猛に攻めるナダル姿にファンは驚き熱狂する。

 照明に灯が入り、入り混じる人工光と自然光が幻想的な空間を演出するなか、ナダルは第1セットを奪い、第2セットも2ブレークアップした。
 
 ただ、光の比重が照明に傾き、夜の気配が濃くなるにつれ、試合の趨勢も変わっていく。ナダルのボールが短くなり、ジョコビッチが試合する局面が明らかに増え始めた。

 第2セット0-3からの9ゲームで、ジョコビッチが落としたゲームはわずかに1つ。日の光の陰りとともに、ナダルの勝機も薄れていくかに思われた。

 ただ、その後、ふたたび劇的に反転した試合の流れは、どう説明がつくだろうか。

 試合開始時から2度下がった気温と、それに伴うボールの重さやバウンドの変化に、ナダルが適応し始めたのだろうか。圧倒的にナダルを後押しする声援が、そして「いつがローランギャロス最後の試合になっても不思議ではない」と繰り返すナダルのこの瞬間に懸ける想いが、そうさせたのかもしれない。

 ナダルのフォアは蘇り、フットワークは力強さを増した。時計の針が深夜12時を回った直後に、ナダルが第3セットを奪う。
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