海外テニス

日本人選手も被害に――。悩ます賭博絡みのヘイトメッセージが改善されないテニス界の懐事情とは?<SMASH>

内田暁

2022.07.07

賭博運営会社が大会スポンサーになれば資金面ではメリットだが、選手レベルではジョコビッチ(写真)のように疑問視する声も少なくないようだ。(C)Getty Images

「生まれた瞬間、母親に捨てられて死ねば良かったのに」

 そんな卑劣で残忍なメッセージをキャロライン・ガルシアが受け取ったのは、今年の全仏オープンで敗れた後だったという。送り主に心当たりなどない。この手のメッセージを受け取るのも初めてでもなんでもない。ただ、こういう言葉を敗戦後に受けるのは彼女だけではない。

 ランキングや国籍問わず、ほとんどのテニス選手は日々これら誹謗中傷にさらされ、身の危険を感じることもある。メッセージの大半は、ギャンブルに起因したものであることが、容易に想像がつくからだ。

 ある日本の女子選手は、ツアーを回り始めて間もない十代のころ、両親と弟の実名を記したうえで、「お前の家族全員、無事で済むと思うな」と書かれたメッセージを受け取ったと明かしてくれた。

 数年前には、女子トッププレーヤーのマディソン・キーズやスローン・スティーブンスが、「これは我々が日々受け取る内のほんの一部」と前置きした上で、自らのソーシャルメディアでヘイトメッセージを公開している。そこには目を覆いたくなるような、人種や性別にも根差した、あまりに侮蔑的な罵詈雑言も並んでいた。そして、これほどに問題は明確にも関わらず、今なお改善が見られないのが現状だ。
 
 目下、開催中のウインブルドンのダブルスでの惜敗後、加藤未唯は「わりと気持ちの切り替えは早くできる方なんですが、今日の試合は、ただただ悔しいです」と視線を落とした。

 第1セットを落とすも、第2セットを奪い返した彼女は、第3セットも終盤で先にブレーク。だが、勝利へのサービスゲームを2度逃すと、最終タイブレークでも相手に最大4ポイントリードされる劣勢に。それでも追い上げ、5度のマッチポイントをしのいだが、最後は14-12で力尽きた。

「最後まで絞りきった感はある」と、本人も力を出し尽くした末の惜敗。試合後のロッカールームでは、他の選手たちから激励の声を掛けられたという。だが、ソーシャルメディアで送られてきたメッセージには、「色んなことが書かれていた」。

「自分でもまだ気持ちの整理がついてないので、それはちょっと辛かったです」

 試合後の会見で、苦しい胸中を絞り出した。

 男子ダブルスで勝機を逃したマクラクラン勉も、「負けた後は、けっこう(ヘイトメッセージが)来ます」と認める。2セット先取の好スタートながら、追い上げを許して迎えたファイナルセット。その最終セットではマッチポイントも複数あったが、リターンミスで逃した場面を後に悔いた。最後は、相手のスーパーショットが連続で決まり、「あれはどうしようもない」と自らを説き伏せた。

 心無いメッセージへの対処法は、シンプルに「見ない」こと。ソーシャルメディアのアカウントを婚約者と共有し、自分が見るより先に消してもらっているという。
 
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