国内テニス

「くるみが頑張っているから、自分も頑張ろうとずっと思ってきた」土居美咲と奈良くるみ、コート上で今までの関係性を語リ合う<SMASH>

内田暁

2022.09.23

小学生の頃から供に切磋琢磨してきた。キャリア最後の日を土居美咲とコートで迎えた奈良くるみ。写真:田中研治(THE DIGEST写真部)

 クリーンに放たれたソフィア・ケニンのフォアハンドボレーが、1時間11分の濃密な一戦に、そして、奈良くるみの約15年に及ぶ競技生活に、終止符を打った。

 対戦相手と主審との握手を終えてベンチに戻った彼女は、即座にタオルに顔をうずめると、しばらくそのまま動かない。その顔を上げた時、広がっていたのは、清々しいまでの満面の笑み。そして、隣に座る「みっちゃん」こと土居美咲に声をかけ、また二人して、涙した。

「みっちゃんには、『ありがとう』という言葉しか最初は出てこなくて」

 試合と、それに続くコート上での引退セレモニーの、およそ1時間後。一通りの感傷を出し尽くしたかのような表情の奈良は、記者会見に同席する土居に視線を送って、そう明かした。

「最後の場で一緒にコートに立てたことが本当にうれしかったし、これ以上の終わり方はなかったので、本当にありがとうという言葉を伝えては、二人で泣いていました」

 キャリアの最後の日を、土居とコート上で迎えること——それは引退を決意した時から、奈良が望んだ理想のフィナーレだった。
 
 奈良と土居は、ともに1991年生まれ。グランドスラム本戦デビューは、二人揃って予選を突破した2010年の全仏オープン。

 最高ランキングは奈良が2014年に記録した32位で、土居は2016年の30位。WTAツアーシングルス初優勝は、奈良が2014年で、土居は2015年。ランキングでも戦績でも、二人は互いの背を目印にするように、抜きつ抜かれつ、常にその存在を隣に感じながら走り続けてきた。
 
 奈良は関西、土居は関東と生まれ育った地は離れた二人の足跡が、初めて交わったのは小学6年生の時。全国小学生テニス選手権の、3回戦での対戦だった。

 ただ、当時から多くのタイトルを取っていた奈良に対し、少女時代の土居は、全国タイトルとは無縁。

 そのような両者の立ち位置は、それぞれの「相手の第一印象」にも反映される。「当時から奈良くるみ選手は、めちゃめちゃ強くて、雲の上の存在というイメージでした。

 たしか6-1、6-1とかで負けたと思うんですが、その時に……全小の試合会場は白のウェアで試合しなくちゃいけないのに、彼女は5分間のウォームアップだけ真っ赤なウェアで登場して! 『え? 強い人ってこうなのかな?』って」

 茶目っ気たっぷりに笑いながら、土居が19年前を昨日のことのように語る。会場内でひと際目立つウェアの少女は、「将来プロを目指す強い人」の漠然とした畏敬と交わり、一層強固なイメージを結んだ。

 

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