国内テニス

今井慎太郎が大学出身選手として35年ぶりの全日本制覇!「大学の4年間は決して無駄じゃないと伝えたい」<SMASH>

渡辺隆康(スマッシュ編集部)

2022.10.30

第1シードの今井慎太郎(左)が全日本選手権初優勝! 関口周一(右)をフルセットで下した。写真:滝川敏之

 テニスの日本チャンピオンを決める「大正製薬リポビタン 全日本テニス選手権97th」(10月22日~30日/有明コロシアムおよび有明インドアコート)は10月30日にいよいよ最終日を迎え、男子シングルス決勝が行なわれた。第1シードの今井慎太郎と第4シードの関口周一が対戦。今井がフルセットの末に関口を下し、全日本選手権初優勝を飾った。

 2年連続で決勝に進んだ29歳の今井と、3度のベスト4の末に初めて決勝の舞台に立った31歳の関口。共に全日本タイトルに懸ける思いは並々ならぬものがあった2人の戦いは、どちらに転ぶかわからない激闘となった。

 全体として試合のペースを握っていたのは関口だったと言っていい。日本選手屈指の強力なフォアハンドを持つ今井に対し、関口は得意とする多彩な球種でかわすテニスではなく、真っ向から打ち合う戦術を選んだ。ポジションを上げてフラットに近い強打をコーナー深く散らし、ネットも果敢に奪う。「プレー自体は僕が押していたと感じている」と関口自身が語るほどの出来だった。

 しかし今井もそれは予測済み。このところ関口に3連勝している今井は、朝の関口の練習を見て、「(今回は)先手先手で来るとわかっていた。あらかじめ身構えていたぶん対応が遅れなかった」と言う。関口の厳しい攻めを辛抱強く拾い、チャンスでは逃さずにフォアを叩き込んだ。第1セットは7-5で今井。第2セットはさらに攻撃のギアを上げた関口が今井のフォアを封じ込み、6―4で奪い返す。

 雌雄を決する第3セット、勝敗を分けたのはフィジカルだった。関口は「疲れていました。今井選手のスピード、パワーによって少しずつ疲労が出てきた」と認める。一方の今井は、今年前半ケガで戦線離脱していた時期に「気持ちを折らずにトレーニングを続けて、それが今につながっている」と語るように、身体的なコンディションは万全だった。
 
 足が出なくなり、ミスが増えた関口を横目に、今井はペースを落とすことなく走り、打ち続け、ワンブレーク差の6-3で逃げ切った。

「気持ちだけは最後まで引かないように心掛けた。本当に最後はそこで少し上回れたのでは」と勝因を振り返った今井。彼がこの全日本優勝に強い思いを持っていたのは、自分個人のことばかりでなく、もう1つ大きな理由があった。それは、大学出身選手としての自負だ。

 今井は早稲田大学の卒業生だが、「学生上がりで全日本を取っている男子選手はしばらくいなかった。次世代の子たちに、大学の4年間というのは決して無駄じゃないと伝えたい。もっともっと大学卒業からプロにトライしてもらいたい。そういう思いもあって優勝したい気持ちだった」。

 そうして今井は、1987年の西尾茂之以来35年ぶりとなる優勝を果たした。「メンタル面の成長が一番培われた4年間。一番足りなかった部分を鍛えてもらって、プロ生活に間違いなく生きている」と今井は大学時代を振り返る。

 高校を出てプロ転向するのが現在の主流であるし、その方が世界への近道だろう。だが今井のように、高校卒業時点でプロになる力が備わっていない選手でも、大学で鍛えて追いつく道もある。今井の全日本制覇は、そういう意味で一石を投じる優勝でもあった。

◆男子シングルス決勝の結果(10月30日)
今井慎太郎(イカイ)① 7-5 4-6 6-3 関口周一(Team REC)④
※丸数字はシード

取材・文●渡辺隆康(スマッシュ編集部)

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