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国内テニス

現役引退の元世界70位の尾﨑里紗が振り返る「しんどいテニス」と「楽しいテニス」<SMASH>

内田暁

2022.10.28

10月23日に行なわれた全日本選手権のラストマッチ(写真)を終えた尾﨑里紗は、試合後「肩の荷がおりた」と心境を口にした。写真:滝川敏之

10月23日に行なわれた全日本選手権のラストマッチ(写真)を終えた尾﨑里紗は、試合後「肩の荷がおりた」と心境を口にした。写真:滝川敏之

「こんなことになるとは、思ってなかったんですけどね……」

 通路のベンチからコートを眺め、独り言のようにふとこぼす彼女の横顔が、どんな言葉より、多くを語るようだった。

 自分の歩んだ道を、嘆く訳ではない。もちろん、誰かを責めるでもない。

 ただただ、自身の足跡や現在地をどう消化すべきか、まだ考えに整理がついていない……そんな口ぶりと表情だった。

 世間の物差しで見れば、尾﨑里紗は、まちがいなく成功者だ。

 小学6年生時に全国小学生大会を制し、その後も国内のジュニアタイトルはことごとく手にした。17歳の時には、全豪オープンJr.でベスト8に進出。プロ転向後は22歳で世界70位に到達し、シングルスで全てのグランドスラムにも出場している。

 それらは多くのテニス少女たちにとり、叶えたい煌びやかな夢だろう。

 ただ恐らくは、子どもの頃の彼女が見た夢ではない。
 
「本当に(小学)4年生くらいまでは全然試合で勝ってなくて。練習も週に1回か2回くらいでしたし。それがいきなり、小5で兵庫県で勝って、次の年には全国で優勝しちゃって……。なんかそこから一気に世界が変わっちゃって、戸惑った感じでした」

 もしかたら今もまだ、彼女は、その戸惑いの中に生きているのかもしれない。

 同世代の頂点に立ったことで、日本代表に選出され、スポンサーや支援を名乗り出る企業等も次々に現れる。

 自分で選んだという自覚もないまま、気づけば、走り出す電車の中に彼女は居た。

 中学1年生の冬には、テニスを真剣に辞めたいと思ったという。

「普通の女の子になりたい」

 それが、周囲に訴えた彼女の願いだった。

 今年10月、全日本選手権を最後に、彼女は正式に競技者キャリアに幕を引く。

 13歳の日の訴えから、15年が経っていた。

 競技者として最後の試合を正式に終えた、2日後。

 全日本選手権の会場で会った彼女は、「普通の女の子」そのものだった。淡いパープルのセーターとも相まって、まとう空気はどこまでもふわりと柔らかい。

 今の想いを尋ねると、「気が抜けたというか、終わったなみたいな感じはあって」と言ってから、少し恥ずかしそうな笑顔で続ける。

「ホッとした感じが7割で、でも負けて悔しくて、ちょっと『クソ!』みたいなのが3割で」……と。
 
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