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海外テニス

【レジェンドの素顔17】グラフが初めて“後退”の屈辱も味わった全米OP決勝での敗戦│前編<SMASH>

立原修造

2024.12.28

ナブラチロワ対策を徹底して挑んだ全米OP決勝だったが、屈辱的な敗戦となってしまった…。(C)Getty Images

ナブラチロワ対策を徹底して挑んだ全米OP決勝だったが、屈辱的な敗戦となってしまった…。(C)Getty Images

 大一番におけるスーパースターたちの大胆さや小心をのぞいていくシリーズ「レジェンドの素顔」。前回に引き続き、ステフィ・グラフを取り上げよう。

 グラフとナブラチロワの対決となった1987年全米オープン決勝。ここでグラフは痛恨の敗戦を喫した。その日からグラフの新たなチャレンジが始まる――。

◆  ◆  ◆

悔やみきれない全米オープンでの敗戦

 全米オープン決勝でグラフに快勝したナブラチロワは、記者団から早速「ナンバーワンの座をどう思うか?」と尋ねられた。その問いに対し、ナブラチロワは毅然とした態度でこう答えた。

「問題なのは、ナンバーワンの座を質で見るかということ。グラフは確かに数多く優勝しているけれど、私が手にしたタイトルの質には及ばないでしょ」

 大した自負である。あるいは、さすがに10年以上にわたって女子テニス界に君臨してきた女王だけに、プライドの高さも並大抵ではないと言うべきか。

 時代は待ってましたとばかりに新しいスターを求めたがる。しかし、グラフに肩入れしがちな風潮に対して、ナブラチロワは痛烈なしっぺ返しをした。ウインブルドンと全米オープンを連覇した者にこそ、世界1の称号がふさわしい、と強烈にアピールしたのだった。
 
 確かに、ナブラチロワはランキングの上ではナンバーワンから滑り落ちていた。しかし、WITAランキングがあくまでもプレーヤーの実力をコンピュータに判定させる相対的なものだとすれば、コンピュータでは目が届かない体感ランキングというものもあっていいはずだ。テニスに詳しい人たちが身体で感じるプレーヤーの実力度――。グランドスラム・イベントの直接対決で、2勝1敗と勝ち越したナブラチロワの方を上位と見るのが自然だろう。

 その事実はグラフの父親ペーターが誰より真っ先に認めざるを得ない。彼はかねてからこう広言していた。

「エバートとナブラチロワを破ってナンバーワンになるのでなければ意味がない」

 エバートは破った。しかし、ナブラチロワを破ることはできなかった。彼女は実に手強い相手だ。グラフとペーターにとって、ウインブルドンでの敗戦はある程度納得することができた。不慣れな芝のサーフェスを考えれば、むしろ決勝に進出できただけでも上出来だった。

 しかし、全米オープンの敗戦は悔やみきれない。思えば、前年の全米オープン準決勝のナプラチロワ戦では3回のマッチポイントを握った。力及ばず逆転されたが、ナブラチロワの胸元に深く食いこんだ感触を得た。さらにレベルアップした今回、その成長の証しとして、昨年より上、つまり何が何でもグラフは勝っておきたかった。試合前には、左利きの男性プレーヤーを練習相手に選んで、ナブラチロワ対策にもぬかりはなかった。

 ところが、思うように身体が動かず、得意のフォアハンドにもミスが目立った。スコアは6-7、1-6。順調に成長していたのに、はじめて“後退”の屈辱も味わった。

 名実ともにグラフがナンバーワンの座につく日は、少し先送りになった。といって、落胆することはない。旧勢力を一掃するにはそれなりの時間がかかるものだ。またその過程でのしのぎ合いが自分を鍛えてくれる。改めてナブラチロワに挑めばいい。その中で何かをつかむことだ。

~~中編へ続く~~

文●立原修造
※スマッシュ1987年12月号から抜粋・再編集
(この原稿が書かれた当時と現在では社会情勢等が異なる部分もあります)

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