いよいよ戦いの火ぶたが切って落とされたテニス四大大会「全仏オープン」(5月28日~6月11日/フランス・パリ/クレーコート)は、大会初日の現地5月28日に女子シングルス1回戦を実施。第29シードで世界ランク31位のジャン・シューアイ(中国)は、同88位のマグダレナ・フレッチ(ポーランド)に1-6、1-6の完敗を喫し、初戦で姿を消した。
WTAツアーで3度のシングルスタイトルを獲得し、最高峰のグランドスラムでも2度ベスト8に進出した実績を持つジャン。ところが今季に入ってからは1月の全豪オープンでベスト16に勝ち進んだ以外はほとんど結果を残せておらず、ツアーレベルのシングルスで勝利したのは1月末に出場した「リヨン・オープン」(WTA250)の1回戦が最後だ。
クレーシーズンに入ってからも不調は続き、先週第3シードで参戦した「ストラスブール国際」(WTA250)は1回戦で格下のアンナ‐レナ・フリードサム(ドイツ/現91位)に0-6、0-6のダブルベーグルで敗れるという屈辱を味わった。
全く調子が上がらない中で臨んだこの日の全仏初戦も序盤からプレーに精彩を欠き、わずか49分でストレート負け。試合後の会見では成績が振るわない苦悩が涙となって溢れ、言葉を発することができなかった。
海外メディア『Sportskeeda』によると、彼女が精神的に追い詰められている背景には中国テニス連盟との関係悪化が密接に関わっている。
事の発端はジャンが、世界ランキングで男女併せて中国人選手最高位のプレーヤーであるにもかかわらず、21年7月に開催された東京五輪の代表に選出されなかったことだった。このような決定を下された理由は、ジャンが東京五輪開幕の11日前に閉幕した四大大会「ウインブルドン」への出場を事前に決めていたからだという。どうやら中国テニス連盟としては、五輪での金メダル獲得に照準を合わせる選手を求めていたようで、ジャンはそれに当てはまらなかったというわけだ。それ以降ジャンと同連盟の緊張状態は続いているようだ。
実は2年前の東京五輪では、各競技で中国人選手に対するプレッシャーがかつてなく強まり、金メダルを逃せばどんな成績であれ、ネット上の過激な国家主義者から非愛国的なアスリートとみなされて非難の的となった。一例を挙げるとお家芸である卓球の混合ダブルス決勝で日本の伊藤美誠/水谷隼に敗れて銀メダルに終わったキョ・キン/リュウ・シブンが、中国大手SNSのウェイボー(微博)で「彼らが国家を敗北させた」などと激しい批判を浴びたという。それほど中国ではオリンピックでの結果が重視されていると解釈できる。
しかしテニス選手はどちらかと言えば四大大会で結果を残すことの方が重要である。ジャンのウインブルドン参戦も、本来ならば尊重されるべき決断であるはずだ。だが現実はそうなっていないことにジャンは深く傷つき、メンタルを大きく崩してしまったというのだ。ちなみに『Sportskeeda』は、ジャンがここ3年間母国に帰れない状況が続いているとも報じている。
こうした背景を踏まえると、ジャンがテニスに集中できないのも無理はない。ツアー転戦もままならない日々を送っているのかもしれないが、周囲のサポートを得ながら何とか芝シーズンでの復調を期待したいものである。
文●中村光佑
【PHOTO】ジャン対フレッチ戦も。全仏オープン2023で奮闘する女子選手たちの厳選写真!
WTAツアーで3度のシングルスタイトルを獲得し、最高峰のグランドスラムでも2度ベスト8に進出した実績を持つジャン。ところが今季に入ってからは1月の全豪オープンでベスト16に勝ち進んだ以外はほとんど結果を残せておらず、ツアーレベルのシングルスで勝利したのは1月末に出場した「リヨン・オープン」(WTA250)の1回戦が最後だ。
クレーシーズンに入ってからも不調は続き、先週第3シードで参戦した「ストラスブール国際」(WTA250)は1回戦で格下のアンナ‐レナ・フリードサム(ドイツ/現91位)に0-6、0-6のダブルベーグルで敗れるという屈辱を味わった。
全く調子が上がらない中で臨んだこの日の全仏初戦も序盤からプレーに精彩を欠き、わずか49分でストレート負け。試合後の会見では成績が振るわない苦悩が涙となって溢れ、言葉を発することができなかった。
海外メディア『Sportskeeda』によると、彼女が精神的に追い詰められている背景には中国テニス連盟との関係悪化が密接に関わっている。
事の発端はジャンが、世界ランキングで男女併せて中国人選手最高位のプレーヤーであるにもかかわらず、21年7月に開催された東京五輪の代表に選出されなかったことだった。このような決定を下された理由は、ジャンが東京五輪開幕の11日前に閉幕した四大大会「ウインブルドン」への出場を事前に決めていたからだという。どうやら中国テニス連盟としては、五輪での金メダル獲得に照準を合わせる選手を求めていたようで、ジャンはそれに当てはまらなかったというわけだ。それ以降ジャンと同連盟の緊張状態は続いているようだ。
実は2年前の東京五輪では、各競技で中国人選手に対するプレッシャーがかつてなく強まり、金メダルを逃せばどんな成績であれ、ネット上の過激な国家主義者から非愛国的なアスリートとみなされて非難の的となった。一例を挙げるとお家芸である卓球の混合ダブルス決勝で日本の伊藤美誠/水谷隼に敗れて銀メダルに終わったキョ・キン/リュウ・シブンが、中国大手SNSのウェイボー(微博)で「彼らが国家を敗北させた」などと激しい批判を浴びたという。それほど中国ではオリンピックでの結果が重視されていると解釈できる。
しかしテニス選手はどちらかと言えば四大大会で結果を残すことの方が重要である。ジャンのウインブルドン参戦も、本来ならば尊重されるべき決断であるはずだ。だが現実はそうなっていないことにジャンは深く傷つき、メンタルを大きく崩してしまったというのだ。ちなみに『Sportskeeda』は、ジャンがここ3年間母国に帰れない状況が続いているとも報じている。
こうした背景を踏まえると、ジャンがテニスに集中できないのも無理はない。ツアー転戦もままならない日々を送っているのかもしれないが、周囲のサポートを得ながら何とか芝シーズンでの復調を期待したいものである。
文●中村光佑
【PHOTO】ジャン対フレッチ戦も。全仏オープン2023で奮闘する女子選手たちの厳選写真!