第1セットは相手の強打に圧倒され、攻略法を見い出せぬままに落とした。
第2セットはゲームカウント5-5まで並走するも、際どいショットの判定を巡って猛抗議し、結果、ポイントペナルティを奪われた。しかもその1ポイントによって、相手にブレークを献上する危機的な展開。
状況的にも、そして両者の内面的にも、試合の趨勢が一気に決まりかねない場面である。恐らくは、会場で3番目に大きな“コート・シモンマチュー”を埋める観客の大半も、そう感じたのではないだろうか。小柄な日本人選手に向けられる声援は音量を増すも、そこには同情の色がにじむ。
全仏オープンテニス3回戦――予選上がりながら、初戦でダニール・メドベージェフを破った驚異のハードヒッターが、勝利に向け一気にアクセルを踏み込むかに思われた。
その時、試合を見ていた大多数の観客は、不満と落胆を露わにする西岡良仁の頭脳内で、いかなる思考が巡らされたかに、全く気付かなかったはずだ。
「ポイントペナルティでゲーム取られてから、結構、火が付いたとこがありますね」。試合後の彼は、事もなげにさらりと言った。
「怒りには、悪い怒りと、良い方向に切り替えられる部分がある。それで言うと、良い怒りでした。すごくファイトをしようというメンタリティになっていったので、そこは一つ、キーポイントだったと思います」
事実、直後のゲームで西岡は、チアゴ・ザイボチヴィウチの強打に食らいつき、幾度もラインぎりぎりに球を深く打ち返す。そして相手のショットが浅くなるや、踏み込んで左腕一戦、ウイナーを叩き込んだ。決め急ぐ相手のミスも誘いつつ、ブレークバックに成功し、タイブレークに持ち込む。
そのタイブレークでは、再び集中力を巻き直した相手に序盤は押され、1-5の窮地に追い込まれた。だがこの窮地でも西岡は、「ぜんぜん行けると思っていた」という。
3-6からは相手のダブルフォールトにも乗じ、4ポイント連取でスコアをひっくり返す。その後は並走状態となるが、互いに一つのミスが致命傷になる綱渡りの戦いは、いわば西岡の戦場だ。
タイブレーク中盤以降は「中途半端に打つのはやめよう、ラケットを振り切っていこう」と心に決める。痺れる場面で幾度も決めた渾身のウイナーは、自信と決意の対価。最後は、西岡の放つバックの鋭いクロスに、相手の返球がラインを割る。ファミリーボックスに向けて咆哮を上げ、強い心を誇示するように胸を幾度も叩いた時、西岡は「主導権を握った」手応えを感じていた。
実際には第3セットは、ザイボチヴィウチに奪われる。それでも「自分に分がある」の自信は揺るがず、第4セットは早々にブレークし奪取。第4セットを奪いファイナルセットに入った時は、「ファーストゲームを取ったら、多分勝てる」と、どこか余裕すらあった。
第2セットはゲームカウント5-5まで並走するも、際どいショットの判定を巡って猛抗議し、結果、ポイントペナルティを奪われた。しかもその1ポイントによって、相手にブレークを献上する危機的な展開。
状況的にも、そして両者の内面的にも、試合の趨勢が一気に決まりかねない場面である。恐らくは、会場で3番目に大きな“コート・シモンマチュー”を埋める観客の大半も、そう感じたのではないだろうか。小柄な日本人選手に向けられる声援は音量を増すも、そこには同情の色がにじむ。
全仏オープンテニス3回戦――予選上がりながら、初戦でダニール・メドベージェフを破った驚異のハードヒッターが、勝利に向け一気にアクセルを踏み込むかに思われた。
その時、試合を見ていた大多数の観客は、不満と落胆を露わにする西岡良仁の頭脳内で、いかなる思考が巡らされたかに、全く気付かなかったはずだ。
「ポイントペナルティでゲーム取られてから、結構、火が付いたとこがありますね」。試合後の彼は、事もなげにさらりと言った。
「怒りには、悪い怒りと、良い方向に切り替えられる部分がある。それで言うと、良い怒りでした。すごくファイトをしようというメンタリティになっていったので、そこは一つ、キーポイントだったと思います」
事実、直後のゲームで西岡は、チアゴ・ザイボチヴィウチの強打に食らいつき、幾度もラインぎりぎりに球を深く打ち返す。そして相手のショットが浅くなるや、踏み込んで左腕一戦、ウイナーを叩き込んだ。決め急ぐ相手のミスも誘いつつ、ブレークバックに成功し、タイブレークに持ち込む。
そのタイブレークでは、再び集中力を巻き直した相手に序盤は押され、1-5の窮地に追い込まれた。だがこの窮地でも西岡は、「ぜんぜん行けると思っていた」という。
3-6からは相手のダブルフォールトにも乗じ、4ポイント連取でスコアをひっくり返す。その後は並走状態となるが、互いに一つのミスが致命傷になる綱渡りの戦いは、いわば西岡の戦場だ。
タイブレーク中盤以降は「中途半端に打つのはやめよう、ラケットを振り切っていこう」と心に決める。痺れる場面で幾度も決めた渾身のウイナーは、自信と決意の対価。最後は、西岡の放つバックの鋭いクロスに、相手の返球がラインを割る。ファミリーボックスに向けて咆哮を上げ、強い心を誇示するように胸を幾度も叩いた時、西岡は「主導権を握った」手応えを感じていた。
実際には第3セットは、ザイボチヴィウチに奪われる。それでも「自分に分がある」の自信は揺るがず、第4セットは早々にブレークし奪取。第4セットを奪いファイナルセットに入った時は、「ファーストゲームを取ったら、多分勝てる」と、どこか余裕すらあった。