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海外テニス

危機的状況から全仏ベスト16入りを決めた西岡良仁。キーポイントは理性の産物だった「良い怒り」<SMASH>

内田暁

2023.06.04

西岡が試合のキーに挙げたのが、第2セットでポイントペナルティを科された場面だ。怒りが「すごくファイトをしようというメンタリティになっていった」と語る。(C)Getty Images

西岡が試合のキーに挙げたのが、第2セットでポイントペナルティを科された場面だ。怒りが「すごくファイトをしようというメンタリティになっていった」と語る。(C)Getty Images

 果たして最初のゲームをブレークした時、予感は確信に変わる。心技体がピタリと重なる西岡に対し、予選上がりのザイボチヴィウチには、もはや巻き返す心身の力は残っていなかった。

 最終スコアは、3-6、7-6(8)、2-6、6-4、6-0。3時間38分の、スリリングながらも必然の逆転劇だった。

 前述したように西岡は、試合のターニングポイントを第2セット終盤の「良い怒り」にあると言った。

 本人も認めるように、怒りは良くも悪くも働きうる。どちらに転がるか難しいところもあるが、今日の試合に関して言えば、「良い怒り」になりえたのには複数の要因がありそうだ。

 一つは、怒りを覚えた状況。
「自分のミスにイライラしたわけではない。テニスは悪くないなかで、『なんでポイントを落とさないといけないの?』と思った時には、頑張ろうってなれます」。それが西岡の自己分析だ。

 そして何より大きいのは、情報も少ない相手との試合が進む中で、ザイボチヴィウチの「限界値」が見えてきたことである。

 例のポイントペナルティの頃には、相手のショットが「第1セットほど刺さらない」...つまりは、球威の低下を感じ取っていた。疲労からか、ボールへ向かう足の運びも雑になっている。フッと気が抜ける時間帯があり、するとミスが増える相手の癖も見逃さなかった。「良い怒り」は単なる幸運ではなく、理性の産物だ。
 
 この日の試合も含め、ここまで3試合全てが第1セットを落としてからの逆転勝利であることも、偶然ではないのだろう。

 初戦のJ・J・ウルフはクレーで初対戦の選手だった。2回戦の相手とは久しぶりの対戦で、ザイボチヴィウチは初対戦。事前の情報が少なく、西岡自身もクレーの経験値がそこまで高いわけではないなかで、「相手を分析し、どういうプレーが効くか明確化できるまで時間が必要」なのだ。

 その意味では4回戦も、これまでと似た展開になるかもしれない。23歳のトマス・マルティン・エチェベリとは、過去の顔合わせはなし。練習も、昨年の全米オープンで一回やっただけだという。

「その時はそこまで球の質が高いと感じなかったが、最近勝ち上がっているので、多分変わったんだと思います」と、西岡は先入観にはとらわれぬ構えだ。

 他方、今季赤土で結果を残すエチェベリは、「僕はクレーコートが圧倒的に多いアルゼンチンで育った。大好きなクレーでなら、チャンスがあると思ってこの大会に入ってきた」と、静かな口調に矜持を込める。

 4回戦で初対戦となる両者は、共に全仏での最高戦績を更新中。互いに緊張も予測されるなか、西岡は身体と頭脳をフル回転させ、再び“スリリングな必然”を紡ぎにいく。

現地取材・文●内田暁

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