果たして最初のゲームをブレークした時、予感は確信に変わる。心技体がピタリと重なる西岡に対し、予選上がりのザイボチヴィウチには、もはや巻き返す心身の力は残っていなかった。
最終スコアは、3-6、7-6(8)、2-6、6-4、6-0。3時間38分の、スリリングながらも必然の逆転劇だった。
前述したように西岡は、試合のターニングポイントを第2セット終盤の「良い怒り」にあると言った。
本人も認めるように、怒りは良くも悪くも働きうる。どちらに転がるか難しいところもあるが、今日の試合に関して言えば、「良い怒り」になりえたのには複数の要因がありそうだ。
一つは、怒りを覚えた状況。
「自分のミスにイライラしたわけではない。テニスは悪くないなかで、『なんでポイントを落とさないといけないの?』と思った時には、頑張ろうってなれます」。それが西岡の自己分析だ。
そして何より大きいのは、情報も少ない相手との試合が進む中で、ザイボチヴィウチの「限界値」が見えてきたことである。
例のポイントペナルティの頃には、相手のショットが「第1セットほど刺さらない」...つまりは、球威の低下を感じ取っていた。疲労からか、ボールへ向かう足の運びも雑になっている。フッと気が抜ける時間帯があり、するとミスが増える相手の癖も見逃さなかった。「良い怒り」は単なる幸運ではなく、理性の産物だ。
この日の試合も含め、ここまで3試合全てが第1セットを落としてからの逆転勝利であることも、偶然ではないのだろう。
初戦のJ・J・ウルフはクレーで初対戦の選手だった。2回戦の相手とは久しぶりの対戦で、ザイボチヴィウチは初対戦。事前の情報が少なく、西岡自身もクレーの経験値がそこまで高いわけではないなかで、「相手を分析し、どういうプレーが効くか明確化できるまで時間が必要」なのだ。
その意味では4回戦も、これまでと似た展開になるかもしれない。23歳のトマス・マルティン・エチェベリとは、過去の顔合わせはなし。練習も、昨年の全米オープンで一回やっただけだという。
「その時はそこまで球の質が高いと感じなかったが、最近勝ち上がっているので、多分変わったんだと思います」と、西岡は先入観にはとらわれぬ構えだ。
他方、今季赤土で結果を残すエチェベリは、「僕はクレーコートが圧倒的に多いアルゼンチンで育った。大好きなクレーでなら、チャンスがあると思ってこの大会に入ってきた」と、静かな口調に矜持を込める。
4回戦で初対戦となる両者は、共に全仏での最高戦績を更新中。互いに緊張も予測されるなか、西岡は身体と頭脳をフル回転させ、再び“スリリングな必然”を紡ぎにいく。
現地取材・文●内田暁
【PHOTO】全仏オープン2023で奮闘する西岡良仁ら男子選手たちの厳選写真!
最終スコアは、3-6、7-6(8)、2-6、6-4、6-0。3時間38分の、スリリングながらも必然の逆転劇だった。
前述したように西岡は、試合のターニングポイントを第2セット終盤の「良い怒り」にあると言った。
本人も認めるように、怒りは良くも悪くも働きうる。どちらに転がるか難しいところもあるが、今日の試合に関して言えば、「良い怒り」になりえたのには複数の要因がありそうだ。
一つは、怒りを覚えた状況。
「自分のミスにイライラしたわけではない。テニスは悪くないなかで、『なんでポイントを落とさないといけないの?』と思った時には、頑張ろうってなれます」。それが西岡の自己分析だ。
そして何より大きいのは、情報も少ない相手との試合が進む中で、ザイボチヴィウチの「限界値」が見えてきたことである。
例のポイントペナルティの頃には、相手のショットが「第1セットほど刺さらない」...つまりは、球威の低下を感じ取っていた。疲労からか、ボールへ向かう足の運びも雑になっている。フッと気が抜ける時間帯があり、するとミスが増える相手の癖も見逃さなかった。「良い怒り」は単なる幸運ではなく、理性の産物だ。
この日の試合も含め、ここまで3試合全てが第1セットを落としてからの逆転勝利であることも、偶然ではないのだろう。
初戦のJ・J・ウルフはクレーで初対戦の選手だった。2回戦の相手とは久しぶりの対戦で、ザイボチヴィウチは初対戦。事前の情報が少なく、西岡自身もクレーの経験値がそこまで高いわけではないなかで、「相手を分析し、どういうプレーが効くか明確化できるまで時間が必要」なのだ。
その意味では4回戦も、これまでと似た展開になるかもしれない。23歳のトマス・マルティン・エチェベリとは、過去の顔合わせはなし。練習も、昨年の全米オープンで一回やっただけだという。
「その時はそこまで球の質が高いと感じなかったが、最近勝ち上がっているので、多分変わったんだと思います」と、西岡は先入観にはとらわれぬ構えだ。
他方、今季赤土で結果を残すエチェベリは、「僕はクレーコートが圧倒的に多いアルゼンチンで育った。大好きなクレーでなら、チャンスがあると思ってこの大会に入ってきた」と、静かな口調に矜持を込める。
4回戦で初対戦となる両者は、共に全仏での最高戦績を更新中。互いに緊張も予測されるなか、西岡は身体と頭脳をフル回転させ、再び“スリリングな必然”を紡ぎにいく。
現地取材・文●内田暁
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