海外テニス

フェデラーの元コーチがアルカラスへの過度な期待に警鐘「2年後に何が起こるかなんてわからない」<SMASH>

中村光佑

2023.08.06

長年フェデラーを指導してきたリュティの目から見て、アルカラスの能力は間違いなく高いが、過度に期待する風潮には「彼に何が起こるかはまだわからない」と釘を刺す。(C)Getty Images

 男子テニス元世界ランク1位のロジャー・フェデラー(スイス)の元コーチであるセベリン・リュティ氏(スイス/47歳)が母国の日刊紙『Blick』のインタビューに登場。すさまじい活躍を続けている20歳の現世界王者カルロス・アルカラス(スペイン)を大いに称賛しつつも、「彼に何が起こるかはまだわからない」と冷静な見方を示した。

 昨年9月の「全米オープン」で悲願のグランドスラム(四大大会)初優勝を飾ったアルカラスは、今シーズンも2月のブエノスアイレスを皮切りに、インディアンウェルズ、バルセロナ、マドリード、ロンドン・クイーンズと、ケガに見舞われながらも勝利を積み重ねてきた。

 そして先月のウインブルドンでは芝コートの経験が浅い中で勝ち上がり、決勝では大会5連覇と前人未到の四大大会24勝目を狙ったノバク・ジョコビッチ(セルビア/2位)をフルセットで撃破。誰もが憧れるテニスの聖地で殊勲のグランドスラム2勝目を手に入れた。

 数々のレジェンドから「すでに完成された選手」と評されることも多いアルカラスのプレーを「非常に楽しく見ているよ」とリュティ氏。そのうえで「アルカラスは間違いなく、多くのグランドスラム大会を制するだけの力を持っている」と、抜群のテニスセンスでファンを魅了し続ける20歳のヤングスターに太鼓判を押した。
 
 その一方でリュティ氏は、アルカラスに過剰な期待が寄せられている風潮に疑問を呈す。「2年後に何が起こるかなんてわからない。彼がケガをしたらどうするのか」と警鐘を鳴らした同氏は、男子テニス界で続々と有望な若手が台頭している現状を踏まえ、「数年後にもっとすごいと皆が言うような別の選手が出てきたら?」ともコメント。そして最後にこう付け加えた。

「今アルカラスが大成功を収めていることに対して誰がどう評価していいかなんて、すぐにはわからない。スポーツの世界では、我々は常にその瞬間を生きている。私は自分のキャリアでそれを学んだ。

 ピート・サンプラス(アメリカ/元1位/51歳)が14個のグランドスラムタイトルを獲得した時、私は"今後そんな記録を打ち立てる選手は誰もいないだろう"と言ったのを今でも覚えている。ところが今ではすでに20回以上の四大大会優勝を経験している選手が3人もいるからね」

 今後のさらなる飛躍が期待されるアルカラス。いずれは誰にも止められない最強の選手になるかもしれないが、まだ20歳と若いだけに成長をじっくりと見守っていきたいものである。

文●中村光佑

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