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日比野菜緒の復活優勝を支えたトレーナーの存在。「体力では負けない」との自負がタフな連戦で生きた!<SMASH>

内田暁

2023.08.08

ラッキールーザーからプラハ・オープン優勝を果たした日比野菜緒。1日3試合をこなして単複制覇する心身の強さを見せた。(C)Getty Images

「菜緒は、ハードな1回戦を残り越えた時はいつも、結果が出せる」

 コーチから掛けられたその言葉は、自身が踏破してきた道とも重なり、日比野菜緒の胸にある種の予言として響いたかもしれない。

 女子テニスツアーの「プラハ・オープン」。確かに1回戦は、とてつもなくハードな試合だった。対戦相手は、元世界5位のサラ・エラーニ。粘り強くミスの少ない大ベテランは、日比野が「苦手とするタイプ」でもあった。

 実際に試合では、ファーストセットはゲームカウント0-5、サードセットでも0-3と追い込まれる。その大劣勢のセットをいずれも、日比野は相手を上回る粘り強さで奪い取った。何かが起きる吉兆は、確かにこの時に灯ったはずだ。

 そもそも「ハードな1回戦」そのものも、巡ってきた僥倖であった。予選決勝で敗れたため、本来ならなかったはずの本戦の舞台。ただ本戦出場者に欠員が出たために、"ラッキールーザー"の地位が回ってきた。

「予選で1回負けているのに本戦に入れたこのチャンスを、できるだけ生かしたいな」。それが試合に向かう時の、日比野の思いだったという。

 無欲さと予感が重なり生まれる良い流れの中で、2回戦、そして3回戦でも重ねた快勝。ただ準決勝は、「今までのテニス人生の中で、一番緊張した試合」となった。
 
 度重なる降雨のため、試合は開始が遅れに遅れる。いざ始まっても、雨による中断が繰り返された。

「コートを乾かすスタッフの皆さんも疲弊しきっている」という重い空気が垂れ込めるなか、試合は日比野が最終セット5-2とリードしたところで、翌日順延となる。

「テニス人生で初めての経験でした。翌日は朝5時くらいから目が覚めちゃって、眠れない。朝ご飯も、いつもより食べられない。緊張で喉を通らないって、こういうことなんだという感じでした」

 後にそう振り返る、今大会最大のターニングポイントだった

 極度の緊張状態と、曇天強風のなか迎えた再開の準決勝。ただコート上ではそんな硬さを見せることなく、サービスゲームをラブゲームでキープし、危なげなく試練を乗り切った。

 この勝利で背負った緊張を解放した日比野は、数時間後に迎えた決勝戦では「疲れもあったが、そのぶんボールにだけ集中できて良いプレーができた」という。

 決勝のリンダ・ノスコワ戦は、6-4、6-1の快勝。それだけではない。カラシニコワと組んだダブルスでも決勝に勝ち上がっていた日比野は、シングルス優勝の数時間後には、再びダブルスのコートへ。ここでもフルセットの接戦を制し、単複ダブル優勝に輝いたのだ。
 
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