国枝慎吾の渾身のリターンを、マルチナ・ナブラチロワがポーチに出て柔らかなボレーで沈める。
伊達公子のドロップショットを、小田凱人が驚異のチェアワークで追いつき打ち返す――。
まるで時空を超えたかのようなスターたちの競演に、集った5,500人越えのファンも息を飲み、歓声をあげ、時にうっとりと酔いしれる。
東レ・パンパシフィックオープンの本戦開幕を翌日に控えた、9月24日。有明コロシアムで開催された"ヨネックス・テニスフェスティバル"は、まさに夢の空間だった。
ツアー通算、シングルス167勝、ダブルス177勝を誇る、テニス界の生きるレジェンド、ナブラチロワが有明コロシアムに立つのは、実に15年半ぶりのことである。
それは2008年3月、シュテフィ・グラフも招いて行なわれたエキシビションマッチ——。奇しくも対戦相手は、伊達公子。当時"引退中"だった伊達は、このエキシビションの直後に現役復帰を表明する。既に復帰を考えていた伊達にとって、セカンドキャリアへと踏み出す最後の背を押してくれたのが、いわばナブラチロワだったのだ。
そんな二人の足跡が再び交錯したその地点に、国枝と小田がいたのも、また運命的である。
「僕、はじめて見たテニス選手が、伊達さんでした」
そう打ち明けたのは、国民栄誉賞受賞者の国枝である。家のテレビにテニスが映ることの多い家庭に育った国枝にとって、伊達公子を認識した時こそが、テニスとの最初の出会い。さらには伊達が、子どもへの普及活動の一環として行った車いすイベントの第一回大会に、国枝は参加していたという。
その国枝のプレー動画を病床のスマホで目にし、ラケット手にしたのが小田であることは、今や広く知られた"王位継承"の物語だ。
世代も性別も、部門も越えて憧憬の輪が循環し、その全員がコートという一点で交錯できるのは、テニスという競技の持つ美点でもある。
その理由を国枝は、明瞭に言葉にする。
「テニスは、健常者も車いすも、ITF(国際テニス連盟)に統合されていることが大きい。そこは先人の力ですし、だからこそグランドスラムでは車いす選手も、(ロジャー・)フェデラーや(ノバク・)ジョコビッチと同じロッカールームで過ごせる。賞金もこの10年くらいで10倍くらいになっているので……」
そう言い国枝は、いたずらっぽい笑みを広げ「凱人はたくさん稼でるだろう!」と、そばにいる小田に視線を向けた。
国枝からバトンを受ける小田は、「車いすテニスのレベルが、見て面白いと思ってもらえるレベルにきていると思う。こういうイベントができるのはモチベーションになるし、自分の経験値も上がる」と、毅然とした表情で言った。
それらの言葉を受けて伊達は、テニスがこれほどの多様性を内包できる理由を、「欧米で広く認められている、グローバルなスポーツであることが大きい」と総括した。
テニスが持つ可能性や理念、そして受け継がれる意志——その全てが、この日の有明コロシアムにあった。
取材・文●内田暁
【PHOTO】世界4位にまで上り詰めた伊達公子のキャリアを写真で振り返り!
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【PHOTO】男子車いす史上初の生涯ゴールデンスラムの偉業達成!ウィンブルドン初優勝の国枝慎吾を特集!
伊達公子のドロップショットを、小田凱人が驚異のチェアワークで追いつき打ち返す――。
まるで時空を超えたかのようなスターたちの競演に、集った5,500人越えのファンも息を飲み、歓声をあげ、時にうっとりと酔いしれる。
東レ・パンパシフィックオープンの本戦開幕を翌日に控えた、9月24日。有明コロシアムで開催された"ヨネックス・テニスフェスティバル"は、まさに夢の空間だった。
ツアー通算、シングルス167勝、ダブルス177勝を誇る、テニス界の生きるレジェンド、ナブラチロワが有明コロシアムに立つのは、実に15年半ぶりのことである。
それは2008年3月、シュテフィ・グラフも招いて行なわれたエキシビションマッチ——。奇しくも対戦相手は、伊達公子。当時"引退中"だった伊達は、このエキシビションの直後に現役復帰を表明する。既に復帰を考えていた伊達にとって、セカンドキャリアへと踏み出す最後の背を押してくれたのが、いわばナブラチロワだったのだ。
そんな二人の足跡が再び交錯したその地点に、国枝と小田がいたのも、また運命的である。
「僕、はじめて見たテニス選手が、伊達さんでした」
そう打ち明けたのは、国民栄誉賞受賞者の国枝である。家のテレビにテニスが映ることの多い家庭に育った国枝にとって、伊達公子を認識した時こそが、テニスとの最初の出会い。さらには伊達が、子どもへの普及活動の一環として行った車いすイベントの第一回大会に、国枝は参加していたという。
その国枝のプレー動画を病床のスマホで目にし、ラケット手にしたのが小田であることは、今や広く知られた"王位継承"の物語だ。
世代も性別も、部門も越えて憧憬の輪が循環し、その全員がコートという一点で交錯できるのは、テニスという競技の持つ美点でもある。
その理由を国枝は、明瞭に言葉にする。
「テニスは、健常者も車いすも、ITF(国際テニス連盟)に統合されていることが大きい。そこは先人の力ですし、だからこそグランドスラムでは車いす選手も、(ロジャー・)フェデラーや(ノバク・)ジョコビッチと同じロッカールームで過ごせる。賞金もこの10年くらいで10倍くらいになっているので……」
そう言い国枝は、いたずらっぽい笑みを広げ「凱人はたくさん稼でるだろう!」と、そばにいる小田に視線を向けた。
国枝からバトンを受ける小田は、「車いすテニスのレベルが、見て面白いと思ってもらえるレベルにきていると思う。こういうイベントができるのはモチベーションになるし、自分の経験値も上がる」と、毅然とした表情で言った。
それらの言葉を受けて伊達は、テニスがこれほどの多様性を内包できる理由を、「欧米で広く認められている、グローバルなスポーツであることが大きい」と総括した。
テニスが持つ可能性や理念、そして受け継がれる意志——その全てが、この日の有明コロシアムにあった。
取材・文●内田暁
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