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海外テニス

テニス選手の言葉を瞬時に文字に起こす速記者!「1分間に260ワードを打つ」キャリア18年のプロに聞く<SMASH>

内田暁

2024.06.01

約18年テニスの会見速記の仕事をしているリンダさん(右)は、多くの会見でナダル(左)ら選手たちの言葉に寄り添い、文字に残してきた。写真=内田暁、Getty Images

約18年テニスの会見速記の仕事をしているリンダさん(右)は、多くの会見でナダル(左)ら選手たちの言葉に寄り添い、文字に残してきた。写真=内田暁、Getty Images

 開幕を目前に控えた、テニス四大大会「全仏オープン」のプレスルーム――。

 会見室には立ち見が出るほど記者が詰めかけ、偉大なる赤土の王、ラファエル・ナダルの到来を待ち構えていた。

 ナダルの会見は常に人気ではあるが、今回は趣きが違う。

「恐らくは今年が、ナダルの最後の全仏オープンになる」……そんな予感を皆が共有し、だからこそ、ナダルの言葉を一言も聞き漏らすまいと緊張感を高めていた。

 その張り詰めた空気の中、会見室に姿を現したナダルは、ふと視線を上げると笑みを広げ、会見室後方に向けて手を振ったのだ。

 その先にいたのは、ガラスを隔てたブースの中で、タイプライターを叩く女性。彼女は、会見で語られる言葉を文字に起こす、会見場の“顔”ともいえる存在だ。

「ラファは本当に素敵な人。今回だけでなく、いつも大会で会うと挨拶をしてくれるの」

 リンダ・クリステンセンさんはそう言うと、ナダル同様に、優しい笑みを顔中に広げた。
 
 リンダさん(皆がそう呼ぶように、ここではファーストネームで表記させて頂く)がテニスツアーの最前線で活動し始めたのは、18年前。ナダルが19歳で全仏初制覇を成したのと、ほぼ時を同じくする。以降彼女は、ナダルらが築いたテニス黄金時代を生き、多くの町を旅し、数え切れないほどの会見の席で、選手たちに寄り添うように彼らの言葉を文字に残してきた。

 リンダさんに「仕事上の肩書き」を伺うと、「トランスクリプショニスト」、もしくは「ステノグラファー」の答えが返ってきた。「トランスクリプショニスト」は、「Transcript(口述筆記)を作る人」。そして、やや馴染の薄い「ステノグラファー」とは、ギリシャ語から派生した「速記者」を意味するそうだ。

 リンダさんは文字起こしをする際、“ステノタイプ”と呼ばれる、速記に特化した特別なタイプライターを使う。ステノタイプは、通常のパソコンなどよりもキーが少ない。ピアノの和音を弾くように複数のキーを同時に押すことで、あらかじめ辞書機能に登録したワードや、センテンスすら瞬時に入力が可能だ。

 ステノグラファーとして働くには、特定の訓練を受けた後、職場に応じた所定のテストをパスする必要がある。専門用語等の知識はもちろん、最も重要なのがスピード。

「私は、1分間に260ワードを打つテストをパスしたのよ!」と、リンダさんは胸を張った。
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