海外テニス

ジャパンオープンを戦い終えた錦織圭が実感した自身の現在地「トップ10にかなわないとは……心の中では思ってない」<SMASH>

内田暁

2024.09.30

ジャパンオープンでシングルス3試合、ダブルス1試合を戦い切った錦織圭。このレベルで勝負できることをはっきりと証明してみせた。写真:滝川敏之

 バックのストロークがネットにかかり、2時間16分の熱戦を自らのミスショットで幕引きした時、錦織圭はその場で肩を落として両ヒザに手を当て、しばらく、動けずにいた。

「自分の中で十分良いテニスはできていたけれど、細かいところは、やっぱりまだまだ足りていない」

「ちょっと足が動いてくれなかったのもあったので、まだまだ体力不足と...バネのなさっていうのは、最後出たかなと思います」

 敗戦の約30分後の会見でも、一定の手応えと満足感は示しながらも、口にする言葉は自分に厳しい。それはもはや、良いプレーで満足できるフェーズは終わったという、言外の宣言でもあるようだった。

「トップ100には入っていけるだろうけれど、総合的に見ると、トップ10には到底かなわない」、「簡単なエラーがまだあるので、それがなくれば多分、トップ10にもワンチャン行けるのかな」

 6年ぶりの参戦となった男子テニスツアー「ジャパンオープン」の大会前会見で、錦織は自身の現状とツアーでの立ち位置を、そのように分析していた。話しながらも上方修正と下方修正を行ったり来たりするあたりに、希望的見解と非楽観主義の相剋が浮かぶ。復調の予感はありながらも、まだどこかで懐疑的。その感触を確かなものにするべく、錦織はジャパンオープンに挑んでいった。
 
 初戦で当たったマリン・チリッチは、今になって振り返れば、これ以上にない相手だったと言えるかもしれない。9月28日に36歳の誕生日を迎えたチリッチは、ジャパンオープンの前週に中国開催のATP250大会で優勝。その足で東京に向かい、決勝のわずか2日後に錦織と対戦した。優勝の勢いと自信もあれば、疲労も当然ある。ましてやチリッチは、今年5月にヒザにメスを入れ、復帰わずか3大会目での優勝だった。

 錦織が通算9勝6敗とリードして迎えた16度目の対戦は、ノスタルジーを纏いながらの、緊迫の並走状態で進んだ。チリッチのサービスが良いのは想定内として、錦織のサービスが冴え冴えとした切れ味を見せる。ワイドに切れるスライスサービスに、チリッチの長いリーチも届かない。

 そこをチリッチがカバーすれば、今度はセンターにピンポイントで錦織がエースを叩き込む。第2セットでは2度のブレークを許したが、それ以外はサービスで危機を凌ぐ場面も多く見られた。

 安定のサービスゲーム。チリッチの強打を時にいなし、時に打ち勝つストローク力。それらが合致したことにより、描けるようになった勝利へのシナリオ。そして、同世代のライバルから得たモチベーション。6-4、3-6、6-3のスコア以上に、多くを持ち帰った勝利となった。
 
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