全豪オープン開幕日の、錦織圭対チアゴ・モンテーロ戦――。
フルセットの死闘が繰り広げられるジョン・ケイン・アリーナのオーロラビジョンに、錦織のコーチの厳しい顔が、幾度も大写しにされていた。その理由は、冷静さを保ちつつも選手を激励する人物が、この大会に愛された元トッププレーヤーであることが大きいだろう。昨年から錦織のコーチに就任したトーマス・ヨハンソンは、2002年全豪オープンテニスの優勝者である。
ヨハンソンのコーチ就任から間もない昨年3月、錦織は元世界7位の全豪オープン優勝者を「まー、まー、おしゃべり」と、愛嬌たっぷりに評していた。現役時代から勤勉かつハードワークで知られ、引退後はコメンテーターとしても活躍する48歳には、多くの経験と人脈と、語るべき数々のエピソードがある。
とりわけヨハンソン自身が「強烈に覚えている」というのが、優勝した全豪オープンを迎えるまでの日々だ。2年前にヨハンソンは、インタビューで次のように明かしている。
「あの年の全豪オープン前哨戦は、最悪の出来だった。その時、確かシドニーで、僕のコーチがランニングシューズを取り出し、『走りに行くぞ』と言った。外に出て公園に行ったら、コーチが『僕が止まれというまで、走れ』と言う。その時のことは今も忘れられない。公園の中の木に寄りかかり、吐くほどヘトヘトになるまで走った。その僕に向かって、コーチが『もうエネルギーは空っぽだな。さあ、メルボルンに行くぞ』と言ったんだ」
この一連の経験を、ヨハンソンはコーチ就任直後に、錦織に聞かせたという。
彼が一連の経験から得た教訓とは、「自分に期待しすぎない、多くを望みすぎない時ほど良い結果は訪れる」。長いケガとの戦いを経て実戦のコートへと向かう錦織に、そのことを心に留めてほしいというのが、コーチの望みだった。
チャレンジャーの立場に身を置くことは、恐らくは、現在「チーム・ケイ」全体が共有しているテーマなのだろう。
昨年末、新シーズンに向けてIMGアカデミーで練習に励む錦織のコートには、理学療法士のロバート・オオハシ氏の姿があった。2011年から錦織と共に歩んできたオオハシ氏は「色々あったね。多くの浮き沈みも経験してきた」と、共に歩んだ道を振り返り懐かしそうに振り返る。そして、こうも続けた。
「今の圭の状態は良いですよ。何より良いのは、今の彼は"アンダー・ザ・レーダー"だということ。プレッシャーなく戦えますから」
「アンダー・ザ・レーダー」とは、人々の警戒を避けつつミッションを遂行できるという意。正に、息をひそめ、レーダーに掛かることなく虎視眈々と標的に近づくような意識が、チーム全体で共有されているのだろう。
フルセットの死闘が繰り広げられるジョン・ケイン・アリーナのオーロラビジョンに、錦織のコーチの厳しい顔が、幾度も大写しにされていた。その理由は、冷静さを保ちつつも選手を激励する人物が、この大会に愛された元トッププレーヤーであることが大きいだろう。昨年から錦織のコーチに就任したトーマス・ヨハンソンは、2002年全豪オープンテニスの優勝者である。
ヨハンソンのコーチ就任から間もない昨年3月、錦織は元世界7位の全豪オープン優勝者を「まー、まー、おしゃべり」と、愛嬌たっぷりに評していた。現役時代から勤勉かつハードワークで知られ、引退後はコメンテーターとしても活躍する48歳には、多くの経験と人脈と、語るべき数々のエピソードがある。
とりわけヨハンソン自身が「強烈に覚えている」というのが、優勝した全豪オープンを迎えるまでの日々だ。2年前にヨハンソンは、インタビューで次のように明かしている。
「あの年の全豪オープン前哨戦は、最悪の出来だった。その時、確かシドニーで、僕のコーチがランニングシューズを取り出し、『走りに行くぞ』と言った。外に出て公園に行ったら、コーチが『僕が止まれというまで、走れ』と言う。その時のことは今も忘れられない。公園の中の木に寄りかかり、吐くほどヘトヘトになるまで走った。その僕に向かって、コーチが『もうエネルギーは空っぽだな。さあ、メルボルンに行くぞ』と言ったんだ」
この一連の経験を、ヨハンソンはコーチ就任直後に、錦織に聞かせたという。
彼が一連の経験から得た教訓とは、「自分に期待しすぎない、多くを望みすぎない時ほど良い結果は訪れる」。長いケガとの戦いを経て実戦のコートへと向かう錦織に、そのことを心に留めてほしいというのが、コーチの望みだった。
チャレンジャーの立場に身を置くことは、恐らくは、現在「チーム・ケイ」全体が共有しているテーマなのだろう。
昨年末、新シーズンに向けてIMGアカデミーで練習に励む錦織のコートには、理学療法士のロバート・オオハシ氏の姿があった。2011年から錦織と共に歩んできたオオハシ氏は「色々あったね。多くの浮き沈みも経験してきた」と、共に歩んだ道を振り返り懐かしそうに振り返る。そして、こうも続けた。
「今の圭の状態は良いですよ。何より良いのは、今の彼は"アンダー・ザ・レーダー"だということ。プレッシャーなく戦えますから」
「アンダー・ザ・レーダー」とは、人々の警戒を避けつつミッションを遂行できるという意。正に、息をひそめ、レーダーに掛かることなく虎視眈々と標的に近づくような意識が、チーム全体で共有されているのだろう。