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海外テニス

錦織圭、全豪オープン大逆転劇のテニスコートに交錯した「想定内」と「想定外」<SMASH>

内田暁

2025.01.13

相手にマッチポイントを握られ「負けると思った」状況から逆転勝利をつかみ取った錦織。(C)Getty Images

相手にマッチポイントを握られ「負けると思った」状況から逆転勝利をつかみ取った錦織。(C)Getty Images

 相手のショットがネットをかすめラインを割ると、錦織圭は両手の拳を握りしめ、目を硬く閉じ、屋根の閉まったジョン・ケイン・アリーナの上方へと顔を向けた。

 2セットを落とし、2本のマッチポイントにまで追い詰められながらの、4-6、6-7(4)、7-5、6-2、6-3の逆転勝利。試合時間は、4時間6分。

 それは類稀なるどんでん返しながら、どこか既視感溢れる光景でもある。現に、錦織の5セットでの勝利はキャリア通算29勝を誇り、うち8度が全豪オープンで演じたものだ。さらに2セットダウンからの逆転勝利も、この地で3度を数える。

 試合後、マネージャーのオリバー・バンリンドンク氏は「なんか懐かしいね」と疲れた笑みをこぼし、大会公式Xは「錦織を5セットで破った人よりも、月面を歩いた人類の方が多い!」と記した。

 1万5百人を収容するジョン・ケイン・アリーナは、その多くが入場券のみで入れる自由席。真に試合を見たいと切望するテニスファンが列を成し詰めかけることから、“People’s Court”の愛称でも知られる。

 その“大衆のコート”を熱狂させた、熱くスリリングな錦織劇場――。それは、元世界4位の35歳と、予選を突破しキャリア2度目の全豪2回戦進出を狙うチアゴ・モンテイロ(ブラジル)の、「想定内」と「想定外」が複雑に交錯し編み上げた、人間味溢れる物語でもあった。
 
 試合後に錦織は、コートに向かう自身に「下の選手とやる」という心持ちがあったと振り返った。実績でも現時点でのランキングでも、錦織はモンテイロを上回る。5年前のウインブルドンで快勝した時の印象も、錦織の中にあっただろう。

 対するモンテイロには、錦織に対する情報と敬意があった。

「ケイは素晴らしい選手で、ファイター。そして、素晴らしいリターナー。だから僕は、良いサーブを打ち続けなくてはいけないことはわかっていた。あとは、攻撃的姿勢を貫かなくてはいけないことも」

 錦織の高い能力を想定するモンテイロは、高い集中力と揺らがぬ決意でコートに向い、序盤からコートを駆けまわり全力でボールを叩いた。そしてそんな高質のプレーは、錦織にとって「想定外」。特に錦織を惑わせたのが、モンテイロのサービスだった。

「チャンスが無かった訳ではないのに、サーブで凌がれた。『サーブ、こんなに凄かったんだっけ?』と。そこまでビッグサーバーだと思っていなかったので、より自分へのイライラが溜まってしまった」

 そう錦織が、述懐する。実際にモンテイロのサービスは、常時200㎞を超えるスピードで、あらゆるコーナーに突き刺さる。第1、2セットともに、錦織は一度もブレークできずに落とした。

 そうして後のなくなった、第3セットの第10ゲーム。自身のサービスゲームながら、錦織は2度のマッチポイントに追い詰められた。

「正直、負けると思った」

 それがコートに立つ錦織の、偽らざる胸中だったという。
 
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